『剣遊記 番外編W』 第二章 只今、島流し中。 (7) 「あっ、雨留守{うるす}さん……たち♋」
いつも同級生であるはずの徳力を、小間使いにしてコキ使っている、同僚の見習い戦士たちが五人。ズラリと清美と徳力の前に顔をそろえていた。
その五人の中心で仁王立ちをしている、かなり綺麗そうな軽装鎧を着ている者が、彼らの元締めと言っても間違いのなさそうな、徳力が言うところの雨留守であるらしかった。
すぐに徳力が、清美の右耳に小声でささやいた。
「気ぃつけてくださいね☢ 雨留守さんっち、こん熊本の名門貴族の御子息なんですけ☝」
「ほぉ〜〜、そうけぇ〜〜☻ ここにも前ん学校とおんなじのがおるとやねぇ☠」
徳力としては、それなりの忠告のつもりであったのだろう。だけど清美にとってはつまらない、ただの親の七光りと言えた。
その雨留守とやらが吠えた。
「トクぅ! むしゃ俺たちん練習鎧ばちゃんと洗濯ばして、ついでに剣の手入れもしちょけっち言うてあったろうも! それなんに最近、いっちょも出来ちょらんばい!」
「あっ、あっ、す、すんましぇん! そのぉ……忘れちょったわけやなかばってん……☁」
ドワーフの戦士見習いの立場としては、教官から言いつけられた清美の世話係で、現在手がいっぱいの状況であった。それでもなんとか、暇な時間ができたときに、言われた雑用を片付けるつもりでいた。けれど実際に、そのような時間はなかったのだ。
無論意地の悪そうな雨留守たちが、それで納得をして引き下がるなど、絶対に有り得ない話であろう。また教官から徳力の子分扱いをやめるように言われているはずだが、彼らはこの忠告を、頭っから無視していた。
「す、すんましぇん! あとで急いで始めますけ、もうちょっと待ってもらえませんけ☂」
いったいどこでどのように育てば、これほどの使用人根性が身に付くものやら。徳力が一生懸命になって、頭をペコペコと下げまくった。だけどもちろん、同級生たちの中で――もしかすると学校全体で最も強い権力を握っているかもしれない彼らが、それで承知をするわけがなかった。
「せからしか! おちゃっかせんで、今すぐやるったい!」
「そうたい! これでおれたちの成績ばちゃーらんごつなったら、全部トクんせいやけね!」
「ぬしゃ、責任ば取れるとけぇ!」
雨留守とその取り巻きども。全部で五人が五人とも、明らかに調子に乗って、総出でひとりのドワーフを責めまくった。
しかし高が鎧ひとつで成績が落ちると言うなら、それはどのように解釈して考えても、本人の実力不足が露呈した結果と言えるはず。性根が腐っている連中は、とにかくなんでも人のせいにしたがるものであるから。
「ふぅ〜ん、なるほどやねぇ〜〜☻」
そんな輩どもの本質を、熟知している清美であった。しかし今のところは責められ続けている徳力の姿を、言わば傍観者の気分で眺めているだけにしていた。なによりも転校してきてまだ間もないだけに、この新しい学校での人物相関図が、よくつかめていない状況なので。
だけどそろそろ、現在の目の前に限ってではあるが、だいたいの学校内縦割り社会の様相が見えてきた。
「まっ、どこん学校ば行ったところで、こぎゃん風に弱いモンば見つけたら、とにかくいじめねえと気が済まんっちゅう異常人格野郎がおるもんやけねぇ☠ これば人間の困った本能っち言うてかじめる(熊本弁で『片付ける』)んは簡単ばってん、なんかだんだん、トクんやつがたいぎゃ可哀想になってきたばい☻」
性格こそ乱暴なれど、その代わり自分よりも弱い立場にいる者に手を出した前科など、清美にはまったくなかった。
これもある意味、ひとつの人を見下した傲慢な態度とも言えそうなのだが、とにかく清美は、弱い者いじめを楽しむような連中が、大の大の大嫌いなのだ。
「ここでまたおめくほど大暴ればしたら、また退学かもしれんばいねぇ☠ でもこいつば、助けてやっかぁ☻ 退学なんち、とっくに慣れっこやけんねぇ♐」
清美にとっての開き直りと強がりは、もはや信条のひとつ――いやふたつであった。早くも決心のついたところで雨留守たちに向け、転入以来初公開の啖呵を切ってやった。
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