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『剣遊記 番外編W』

第二章 只今、島流し中。

     (2)

「はいはい、わかりましたばい……☹」

 

 反抗――とは言っても、しょせんは本気で清美に歯向かった試しのない徳力である。

 

「またあん島ですねぇ……☠」

 

 一日に必ず、三回以上は立ち寄る(要するにサボリ)、ふたり専用の名も無い小島。そこに向け、徳力は面倒臭げな面持ちで、船の舵を切って、船首を島の方向へと向けさせた。

 

「どうせ誰もおらんこつばええことにして、一日{いちんち}中、島ん中で裸で駆け回るとでしょ♋ そん間ボクは、船ん中で寝てますけ♠」

 

 徳力のセリフは清美が本当に、島の中で実行している振る舞いであった。だからこのセリフに応えるかのごとく、清美のほうは、とっくにやる気満々のご様子でいた。

 

「当ったり前ったい! だけんあたいの裸ば無断で見た命知らずな出歯亀野郎ば、たとえ相棒のおめえでもずえったいに勘弁しちゃらんけねぇ!」

 

 などと、徳力にそのような勇気も度胸もないことを知っていながら、あえて忠告(と見せかけた脅し☠)を忘れなかった。

 

 そもそも『無断』がいけないと言ったところで、清美がいったい、誰に『覗きの許可』を与えるのだろうか。

 

「はいはい、わかっちょりますって♋ それじゃ、行ってらっしゃい☢」

 

 徳力が気のない返事を戻している間に、漁船が島の入り江に到着。無人島なので桟橋などあるはずもないから、ここから先は泳ぐしか、島への上陸手段は他にはなかった。

 

「よっしゃ! わかっちょったらそれでよかばい✌ じゃあ、あたいは行って来っからねぇ✈」

 

 そう言って、徳力を船室内で缶詰の状態にしておいてから、清美は颯爽とした気分になって、漁船の甲板上にピョンと躍り出た。

 

 船から見える島の砂浜まで、簡単にひと泳ぎの距離ではあった。しかし清美は現在、仕事着である軽装鎧の格好(常に突然の戦闘に備えての用意であるが、これがけっこう暑いのだ)。もちろん軽めでもあるが、鎧を着たままで泳ぐのは非常に困難であり、また危険な振る舞いでもあった。でもって清美は、これからいったいどうするのであろうか――答はすでに、徳力が言っていた。ここは広い海の上と、すぐ近くにある島は無人島。その島の入り江で漁船が一隻、ポツンと浮かんでいる状況。

 

「まうごつ(熊本弁で『とても』)、よか天気ばいねぇ✌」

 

 清美自身も心は晴れ晴れ。それでも周囲を警戒する行動は女性の本能。周りの海にも島にも一艘の船もいないのがわかっていながら(徳力は船室の中)、清美は周辺をキョロキョロと見回した。それから安心した気持ちになって、着ている鎧や下着を無造作に、甲板上でポンポンと脱ぎ散らかした。

 

 さらに長い黒髪をうしろのほうに束ねて、ヒモで結べば出来上がり。

 

 つまり清美は、船の上から一糸もまとわぬ真っ裸となって、島まで泳いで行くつもり。飛び込む前の汗ばんだ素肌に海風がさわって、実に心地の良い思いがした。


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