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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (9)

『おはよっさん♡』

 

 一方そのころ――であった。朝から姿を見せなかった涼子が、いきなり孝治と友美の前に出現した。それも夕食前という時刻での出来事だった。

 

「うわっち! ど、どこ行っとったとや、今まで!」

 

 酒場のテーブルでコーヒーを飲んでいた孝治は、突然涼子が裸の格好(いつものこと)で瞳の前に登場したものだから、危うく口の中の液体を噴き出す寸前となった。

 

 それでも涼子は、少しも悪びれる様子はなし。

 

『ちょっとね♡ 例の新人さんふたりに興味ば持っちゃったもんやけ♡♐』

 

 人を散々驚かせておきながら、本人はケロッとした顔付き。空いている席に、勝手に座るだけだった。

 

 壁抜けなど自由自在なはずの幽霊が、どうして床に立ったり椅子に座れるのやら。考えてみれば不思議である。しかし当の本人はごく当たり前にこれらの動作を行なっているのだから、孝治も思い悩んでいるわけではない。それよりも涼子の言った話題とやらのほうが、断然的に先決と言えた。

 

「例の新人さんふたりって……沙織さんのお友達の、泰子さんと浩子さんのこと?」

 

『そうそう! そうっちゃよ!』

 

 友美が新人ふたりの名前を出してくれたので、なにかを言いたくてたまらなそうな顔をしている涼子が大きくうなずき、テーブルの上に身――ならぬ幽体を乗り出した。

 

『そんふたりが臨時の給仕係っちゅうことで、お店で働くことになったとやけどぉ……ちょっとひと波乱ありそうなんよねぇ〜〜☢☠』

 

「「ひと波乱?」」

 

 孝治と友美の声が、物の見事に唱和した。これに話を仕掛ける側である涼子は、いかにも生き生きとした(幽霊だから、この表現法はおかしい☻)顔付きで、瞳もキラキラと輝いていた。やはり根っからの、騒動好きがなせる振る舞いであろう。

 

『これって、あたしが今厨房で見てきたんやけどねぇ☞☞』


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