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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (8)

「うふっ♡ なんだかおもしろくなりそうだわ♡」

 

 初めて黒崎家の御庭番に指令を行なった沙織の胸は、このとき高揚感で舞い上がったような気分になっていた。

 

「さてと……☝」

 

 とりあえずの指示を終え、沙織が続いて開いた書類は、未来亭に専属する戦士や魔術師、従業員たちの名簿だった。

 

「いるいる☆ ほんとに健二兄さんの主義っていうか趣味丸出しって感じ☛ 日本の縮図、種族の坩堝{るつぼ}ってもんだわ☻」

 

 名簿には無論であるが、孝治たちの氏名や略歴などが記載されていた。

 

「……人間はもちろんなんだけどぉ……ヴァンパイア{吸血鬼}にワーキャット{猫人間}にラミア{半蛇人}にピクシー{小妖精}にケンタウロス{半馬人}にワーウルフ{狼人間}にバードマン{有翼人}にドラゴン{竜}!……に、よくぞこれだけ雑多な人たちを集めたもんだわねぇ〜〜☀ ……って、この元男性で今は女性って、いったいなんなのかしら?」

 

 ページの所々に興味を感じつつ、さらに書類をめくり続ける沙織。そんな彼女の瞳が、氏名欄のひとつに釘付けとなった。

 

「あら? 従業員のひとりにウンディーネもいるじゃない……大丈夫かしら? 昔っからよく泰子のシルフとウンディーネって、同じ精霊でありながら犬猿の仲って言われてるんだけどぉ……☁」

 

 沙織は改めて思い出した。出自が精霊なだけあって、泰子はあれでけっこう気位が高い。しかも異種の精霊同士が鉢会えば、必ずひと悶着起きるのが、世の中の常となっている。

 

「まあ、そのときはそのときよね☺」

 

 一応は胸の中に一抹の心配がよぎるけど、すぐに話を前向きへと転換。

 

「ちょっと嵐の予感もするんだけどぉ……それにしても聞いてはいたけど、遠征中で不在の専属戦士や魔術師もいっぱいいるわよねぇ♪ わたしが代行中に会えない人もたくさんいるじゃない✈」

 

 などと、今さらながらに従兄の懐の深さを思い知りながら、沙織は最後に大きな吐息をひとつ。名簿の閲覧を終了した。


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