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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (6)

 同じ昼礼の場(孝治たちとは離れた所)に、荒生田と裕志もいた。このサングラス😎野郎は昨晩、衛兵隊長の大門を怒らせ、ひと晩中市内を追われていたはず――なのだが、今はなぜかピンピンとした顔。堂々と昼礼に参加をしていた。

 

 全身まったく無傷な様子を見ると、どうやらまんまと、大門の日本刀(虎徹)から逃げきったようである。

 

「なるほどぉ☞ あれが能面店長の従妹さんけぇ……オレ好みっちゃねぇ♡ それに両側のふたりも良かっちゃねぇ♡♡」

 

 荒生田の目的はもちろん、店長の従妹――沙織の品定め。しかし、彼女の左右に並ぶ女の子ふたりも、これはこれで捨てがたい――といった感じか。

 

 要するに、可愛い女の子であれば、みんな好みになるだけの話であるが。

 

「従妹の両側におるふたりはなんやろっか?」

 

 サングラスの奥の三白眼を光らせ、荒生田が右隣りにいる裕志に尋ねた。これに裕志が、馬鹿正直に答えた。

 

「はい、由香から聞いたとですけど、沙織さんのお友達で、同じ東京の大学に通ってる学生さんやそうです✍」

 

「ほう、女子大生……つまり『JD』っちゅうわけっちゃね✌」

 

 今度は前歯をキラリと光らせ、荒生田がニヤリとした。

 

「片方はハーピーけぇ……もうひとりは人間やろっか?」

 

 現時点において、荒生田は泰子がシルフであることを、まだ知らなかったりする。それも無理はなし。精霊がふつうに生活をしていたら、一般人と区別をする術が、実際になにもないからだ。現にウンディーネ{水の精霊}である由香が、その代表例であるように。

 

 ここで荒生田が――一応場の空気を読んで控えめではあるが――叫んだ。

 

「ゆおーーっし! あとで由香に話ば通しときんしゃいよぉ!」

 

「えっ? なんをですか?」

 

 思わずであろうが、ここで問い返してきた裕志の頭を、荒生田がグーでポカッと殴りつけた。

 

「痛っ! なんしよんですかぁ……☁」

 

 涙目となる裕志に、荒生田がゴーマン丸出しで答えた。

 

「ばぁーたれっ! オレが沙織に挨拶に行く段取りっちゃよ! よぉーっく考えてみぃ☜ 彼女は店長の数少ない身内なんやけ、場合によってはこの未来亭ば引き継ぐ後継者なんやけね☆」

 

 はっきり言って、想像力が突飛すぎ。しかし荒生田の妄言は続いた。

 

「っちゅうことはやねぇ、もしもオレが彼女ばモノにすることができれば、それこそこの店の店長にオレが収まる可能性もあるっちことばい☀」

 

(それは絶対有り得ましぇん☠)

 

「は、はあ……そうですねぇ〜〜☁」

 

 腹の中と口とでまったく正反対な返事を戻しながら、裕志は一応うなずく振りをした。そんな後輩魔術師に、荒生田がこれまた軽い言葉を投げつけた。

 

「ゆおーーっし! じゃあ、よろしく頼むけね♡」

 

「先輩、またこれからどっか行くとですか?」

 

「また街で飲んでくるけ✈ きのうはおもしろくねえことが山ほどあったけねぇ✥✵」

 

 これにて裕志が引っくりこけた顛末は、今さら記すまでもないだろう。


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