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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (5)

「……と言うわけで、短い間ですが、きょうからよろしくお願いいたしますね♡」

 

 沙織たちの初お目見えの席である昼礼は、つつがなく無難な挨拶で終了した。

 

昼礼の上座――お立ち台に立つ沙織の両隣りにはそれぞれ、浩子と泰子も顔をそろえていた。だけどこのふたりは、挨拶なしの会釈だけ。また会場となった中庭には従業員一同だけではなく、店子である孝治と友美も顔を出していた。

 

 ふたりは周りに聞こえないよう、小声でささやき合った。

 

「友美はどげん思うね? あの店長の従妹っての……☛」

 

「う〜ん、まだ決めつけるんはちきっと早いっち思うっちゃけどぉ……まさにピチピチ現役の女子大生って感じやねぇ☺ 先んこつはほんなこつ未知数なんやけどね♐」

 

 そこへやはり、昼礼に参加していた秀正も、ふたりの話に割り込んだ。秀正は店長の従妹とやらの容姿に半分見取れながら、知ったかぶり丸出しでささやいた。

 

「顔は見たところ、えろうベッピンさんやねぇ♥ それに彼女、ずいぶん気ぃ張っちょうみたいやけ、もうちょい気ぃ楽にしてもよかっちゃけどねぇ♠ どうせ店長が帰ってくるまでの代行なんやけ☻」

 

 孝治は自分の右側に立つ秀正を、横目で見つめてやった。

 

「なして秀正がここにおるとや? おまえはとっくの昔に未来亭ば出て独立したっちゃろ?」

 

 秀正は笑って応えた。

 

「そげん固えこと言わんでもよかろうも♥ おれは未来亭のOBとして、やっぱり次世代の新店長が気になるだけなんやけ♥」

 

「まだそげん風に決まったわけじゃ、いっちょもなかっちゃけどねぇ……♦」

 

 友美が突っ込んでも、やはりまったくの上の空。秀正の目線は中庭のお立ち台に立っている沙織に、見事釘付けとなっていた。その理由は、次のようなものだった。

 

「よう見れば、けっこう美人やねぇ♡ 店長かて一応イケメンの部類なんやけど、さすがにおんなじ一族の血が流れちょうだけはあるっちゃねぇ♐ それと右におる色白な彼女も、なかなかいいっちゃねぇ♡ 聞けば秋田の出身らしいけ、これこそ噂の秋田美人ばいね♡」

 

 秀正の興味の対象は、もちろん泰子のほうであろう。左側にいるハーピーの浩子については、気の毒にもノーコメントのようである。

 

「またそげなこつ言うてからぁ☠ そげな情報は、ほんなこつ早かっちゃねぇ✈ こりゃまた浮気の虫がうずきよんやろ☠ 律子ちゃんに言いつけよっかね☞」

 

「そうっちゃよ☺ 律子ちゃんや家族ば大事にせん人は、必ず報いば受けるっちゃけねぇ☻」

 

「そ、それだけはご勘弁ばい!♋」

 

 孝治と友美からそろって愛妻(律子)の名前を出されては、秀正に対抗の術はなし。

 

「律子んやつ、出産したばっかしで、まだ神経がピリピリしよんやけねぇ! やけんちょっとしたことでもどげん腹ば立てるか、わかったもんやなかっちゃけ!」

 

 秀正が慌てて泣きついてくるので、孝治も友美も、笑って許してやった。

 

「嘘っちゃよ☻」

 

「そ、それよか……板堰先生の顔ば見らんとやけど、今なんしよんやろっか?」

 

 ここで舌を出す孝治に、秀正が無理矢理的な話題変え。昨夜から未来亭に宿泊しているはずの剣豪について、尋ね返してきた。

 

 見え見えの方向転換であったが、孝治はこの問いに、内心で苦笑。それでも未来亭の建物を見上げながら、上の階を右手で指差してやった。

 

「板堰先生やったら、四階の四百十二号室にこもりっきりになっとうっちゃね☝」

 

「すると、大介もけ?」

 

「大介は、その隣りん部屋☜」

 

 続く秀正の問いに、孝治は右手人差し指をズラし、剣豪の左側の窓を指し示した。

 

 剣豪への弟子入りを見事に果たしたつもりでいる大介は、頼まれたわけでもないのに警護だと言い張り、師匠の部屋の前で寝ずの番を気取っていた。

 

 板堰から『勝手にしろ』と言われたのだから、本当に言葉のとおり、勝手にしているわけ。だけどあまりにも張り切りすぎなので、孝治は大介の体が、少々心配になっていた。

 

「あとでちょっくら、様子ば見に行ってみよっかね☆」

 

「そうっちゃね☀」

 

「わたしも行くけ✈」

 

 孝治はポツリとささやいた。これに秀正と友美も、積極的な感じで応じてくれた。


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