『剣遊記Y』 第三章 精霊抗争勃発! (25) でもって、泰子と浩子が消えた――そのすぐあとだった。のこのこと現われた者が例によって、またもや孝治と友美のコンビ。
「さっきはドえらい目に遭ったっちゃねぇ☁ たまにいいことしようっち思うたら、いっつもこれやけねぇ☠」
「そげなこつなかっちゃよ☀ それは孝治の考え過ぎばい♐」
『よっぽど日頃の行ないが悪かっちゃよねぇ☻ これじゃ死んでも天国には行けんけね☺』
孝治と友美のうしろからは、涼子もふわふわとくっ付いていた。しかもいつもの調子。孝治をからかいながらで。
「自分は天国にも地獄にも行かんくせにっちゃね♨」
孝治の代わりに横目の友美から痛い所を突かれると、知らんぷりで口笛を吹く姿が、いかにも涼子らしいとも言えた。
「にゃあ♪」
そんな三人(もち涼子は見えないので、他人から見ればふたりだろう)の足元で、突然猫がひと声鳴いた。言わずと知れた、朋子の登場だった。
「うわっち? 朋子じゃん☞ おまえ猫になってなんしよんね?」
無論孝治を始め三人とも、朋子がワーキャットであるなど、とっくに承知済み。要は、朋子が三毛猫の姿で店内をうろついていることが、なぜか珍しかったわけ。だが朋子にとっても、孝治と友美との遭遇は(繰り返すが涼子は見えない)、予想外かつ計画外な出来事だったのだ。
通訳すると、こうなる。
「にゃにゃあーー? にゃん、にゃん? (あれぇ? どげんして孝治くんと友美ちゃんが、ここにおるとぉ? 来るのは泰子じゃにゃかったとぉ?)」
「朋子ったら、いったいなんが言いたいとやろっか?」
当たり前だが、魔術師の友美でも、猫語がわかるはずはなかった。一方孝治は、そんな調子で慌てている様子の朋子を見て、次のように解釈した。
「こっち来てっち言いよんやないと? きっとなんかいいモンがあるんやろ♡」
はっきり言って、大間違い。それでもそのまま、孝治は先に進もうとした。
「にゃん! にゃにゃあーー! (駄目にゃん! こっち来たらすべっちゃうけぇ!)」
教えたい話があれば、人の姿に戻るのが、一番手っ取り早いだろう。しかしそれを行なえば、朋子は人前で、真っ裸のスタイルになってしまうわけ。
そんな朋子の危険信号に、まったく気がつかないままだった。瞳がふし穴の孝治は軽い足取りで、通路を先へと急いだ。
結果。
「うわっち!」
孝治見事に、ツルぅっっ! ドテぇっ! と大転倒。友美と涼子を巻き込まなかったものの(友美は素早く身をかわした。涼子はそもそも問題外)、どういうわけだか孝治は三毛猫――朋子のしっぽを無我夢中でつかんでしまい、そのままいっしょに廊下をすべっていった。
「うわっちぃーーっ!」
「にゃあーーっ! (きゃあーーっ!)」
さらにそろって、突き当たりの壁にドンっと正面衝突。
孝治は本能で朋子を胸に抱いて、彼女の体が壁に当たらないように庇ってやった。
その行為は誉めて良し。しかし由香のもくろみどおり、棚からメリケン粉をふたりしてもろに、ガバァーーっと大量に頭からかぶってしまう。
「うわっちぃーーっ! ぷうーーっ!」
これにて周囲が瞬く間に白一色の世界。孝治も真っ白なら、朋子も黒と茶色の毛色が消失。三毛猫から白猫への化粧直しとなっていた。
「うわっち! うわっち! な、な、な、なんねこれってぇーーっ!」
全身メリケン粉まみれとなった孝治は、思いっきりわめき立てた。
「にゃあーーん!」
朋子も粉を撒き散らしながら、現場から猛ダッシュで逃走した。
この突然の惨劇には、友美も涼子もなす術なし。ただ呆然と状況を見つめるだけだった。
やがて友美が、ポツリとささやいた。
「孝治……やっぱりきょうは厄日やなかと?」
孝治もそれを否定できなかった。
「そ……そうかも……☁☠」
『そうに決まっとろうも!』
涼子はやや、他人事みたいな口振りだった。それはとにかく、思えばきょうという日は、由香と泰子のケンカには巻き込まれるわ。酒場でビールを持ったままで転ぶわ。さらにはたった今、廊下ですべってメリケン粉まみれ。
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