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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (19)

 そこへ急な突発的展開が発生。

 

「なんねぇ、けっこう真面目に働きよんやねぇ☆」

 

「けっこうはよげいだぁ☻」

 

 部屋に引きこもっていたはずであるが、孝治は早くもふつうの顔をして登場。のこのこと泰子に声をかけてやった。

 

「ちょっとぉ! なして孝治くんが今ごろ出てくんのよぉ!」

 

「ぼくに訊いたかて、わからんちゃよ☁」

 

 これを陰から見ていた由香と裕志が、仰天するのも当然。楽屋の中から覗いていた友美と涼子も、孝治の突然の復活に、驚いているご様子っぷりであったから。

 

『あららら! 孝治ったら、もう出てきちゃったんやねぇ☀』

 

「孝治んこつやけ、すぐ立ち直るっち思いよったんやけど……今の場合、タイミングが悪過ぎっちゃよ☠ なんがあるかようわからんとやけど、また巻き込まれちゃうばい☃」

 

 ふたりの不安の声が、離れた場所にいる孝治の耳まで、伝わるはずもなし。ましてや通路一面に魔術のクモの糸が張られていようなど、友美も涼子も、まったく知らない話なのだ。おまけに孝治は、新人給仕係である泰子が持たされている重たそうなトレイを瞳に入れるなり、例の持ち前であり、また信念(?)でもある女性擁護{フェミニスト}の義務感が点火した。

 

「なんね☛ ずいぶん重労働させられよんやねぇ☹ こげなん、おれが持ってやるっちゃよ☆」

 

「えっ? そんなやがなってええだか? さっきはわたす、あんたさケンカに巻き込んで、あんたにしょし目に遭わせちゃったのにぃ☹」

 

 泰子の瞳は、どうやら本気の驚きで真ん丸になっていた。これに孝治は、鼻でふふんと笑って返してやった。

 

「おれは昔んこつは、ついさっきんことでも気にせん主義しとうっちゃよ☀ それに女性ば大事にするんは戦士の義務やけんね✌」

 

「そんただこと言ってるあんたも、女性だべ☞」

 

「さあ、仕事仕事!」

 

 今の泰子のセリフは聞かなかった振りをして、孝治は大ジョッキが載ったトレイを受け取った。

 

「えっと……どこに持ってくと?」

 

「三番テーブルだぁ☜」

 

「わかった☆☺」

 

 大ジョッキが四杯も載っているトレイは、予想よりも重かった。だけど話としては、ここまでは良かった。ただし誰もが予測をしているとおり、孝治は見えないクモの糸に、見事左足を引っかけてしまう。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 そのまま、ドテっっ! ガッシャアアアアアアアアンンと、ド派手に転倒。ビールを全部、床にぶち撒ける結果となった。

 

「あらぁ! なもかもねぇことだぁ!」

 

 泰子もこれには、大いに驚いたご様子。さらに友美も、楽屋の中から飛び出した。涼子もあとから、浮遊して友美に続いた。

 

「孝治ぃーーっ!」

 

『大丈夫けぇ!』

 

「へ、変やねぇ……♋」

 

 まるで絵に描いたような転びっぷり。だけど幸いにして、ケガだけは免れた模様。しかし孝治は、床に尻をつけたまま、両腕を組んで頭をひねり続けた。

 

「こげななんもない所で、なしておれはコケたとや?」

 

 クモの糸は証拠隠滅のため、使用後は自然消滅する仕掛けとなっていた。だから孝治は、自分が(しょーもない)罠に引っ掛かったなどとは、まったく気づかないままでいた。


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