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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (16)

「そいぎんたぁ(長崎弁で『それじゃあ』)、気ぃつけてね☻」

 

「はぁーーい!」

 

 彩乃から大ジョッキが四杯も載ったトレイを渡され、泰子がよろめいた足取りで、客席へと向かった。

 

 泰子が厨房から出るなり、すぐに扉の陰から、由香と裕志が顔を出した。このふたりは彩乃と泰子が客注のやり取りをしていた間、ずっと隅で隠れて様子を見ていたのだ。

 

「どげんね? 準備はよか?」

 

「ええばい☁」

 

 彩乃の返事を得て即、由香がくちびる💋の端に、ニタリと笑みを浮かべた。反対に裕志は、全然浮かない顔付きだった。

 

「ほほほっ! お店に向かう途中には、見えないクモん糸が張っとうとやけ☠ あの秋田風女に、それがわかるとかしらねぇ☻☻☻」

 

 彼氏の暗い顔付きなど、完全に眼中の外。由香の逆襲作戦第一号の始まりである。それは泰子に重たい酒を持たせ、途中で糸に足を引っかけて転倒させようという、単純かつ質素な嫌がらせなのだ。

 

 酒場の入り口で思いっきり酒をこぼしてびしょびしょになった泰子を見下ろし、由香は心ゆくまで大笑いをするつもり。

 

お店の損害など、完全に度外視および思慮の範囲外の様相で。


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