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『剣遊記Y』

第三章 精霊抗争勃発!

     (12)

「あっ、ほんなこつ☀」

 

 孝治にとってウンディーネの還元の様子は、ある意味見慣れた光景だった。それでも元へ還るたびに真っ裸という状態だけは、どうしてもいただけない、超不幸な出来事でもある。しかも今回は由香に加えて――なのであるが。

 

「きゃあ! エッチぃ!」

 

 姿が完全に人へと戻ったとたん、由香が慌てて、あらわになっている自分の胸を両手で覆い隠した。おまけに着ていた制服も、バラバラに散らばっている有様。だが今回は、それらをかき集めることができない状況でもあった。

 

「……うわっち! ご、ごめんばい!」

 

 孝治も慌てて、一糸もまとっていない由香から瞳をそらした。それでも、由香と泰子のケンカの原因は、孝治にもだいたいの察知がついていた。世間で昔から言われているとおり、水と風の精霊同士によるぶつかり合い以外には、まったく考えられないからだ。

 

 ケンカのきっかけだけは初めの出来事を見ていないので、どうしてもわからなかった。だが、今の水しぶきは由香が泰子の風に吹き飛ばされ、そこへ運悪く真正面にいた自分に降りかかったんやろうねぇ――と、孝治は半分とまどっているままの頭で推測した。

 

「どんただ? こいでウンディーネがシルフに勝でねえっでごと、わがっだだべぇ✌」

 

 厨房の入り口で仁王立ちしている泰子は、完全に勝ち誇りの顔付き。由香に向かって言い放った。

 

 由香はこれに、明らかな強がりで応じ返した。

 

「な、なん言いよんね! 勝負はまだ始まったばかりだけん! 九回裏大逆転かてあるとやけぇ!」

 

 しかし余裕しゃくしゃくである泰子は、軽く鼻で笑って返すだけ。

 

「ふふん♡ しょせん、水は水だべ☠ 体がうるげるけ、高いとごから低いとごまでまがえることしかできないんだべさ☞ はらわりいならわたすみでえに、空さ飛んでみるべさぁ☻☻」

 

「な、なによぉーーっ!」

 

 なおも追い討ちをかける泰子に、由香の髪が逆上がる。そのすぐ右脇で尻餅をついたままの孝治も、こんな由香を見た経験はひさしぶり。しかし泰子のほうは、一応気が済んだらしかった。

 

「そいではわたす、給仕の仕事さ覚えねえどいげねえから、せんばな☻☺」

 

「うわっち! お、おい! あんた……そげなカッコんまんまで店に出るつもりけぇ!」

 

 孝治の声にも、もはや泰子は振り返りもしなかった。孝治自身、自分で自覚しているほどの熟柿顔となっているのに、それも完全無視な態度のままで。


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