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『剣遊記番外編U』

第三章 さらわれた魔剣、囚われの戦士。

     (8)

 さすがに日本有数の大都会なだけあって、大阪市衛兵隊の留置場は、かなりに豪勢な造りとなっていた。

 

 それこそいっちょ前の城にも匹敵をする石造りの建造物(お城型🏰)の中に、これまた二階建ての様式で、ズラリと檻が並んでいるのだから――と、このいかにも贅沢そうな造りの中で、板堰と二島のふたりは仲良く、二階の収監部屋に収容されていた。

 

 罪状は強盗容疑。

 

 明日香の村での出来事が、やはり事件に仕立て上げられていたようだ。

 

 ところがこの期に及んでも、二島はほとんど呑気のスタイルでいた。

 

「こりゃ留置場も、なかなか風流なものでんなぁ♡ こうして静かな環境を与えられると、自然と新しい伝承歌の創作意欲が続々と湧いてくる感じがいたしますわ♪」

 

 無論留置場の中では、私語が厳格に禁止されていた。

 

だから静かは当然。二島の意味のないささやきだけが、薄暗い場内に響き渡っていた。おかげですぐに右隣りの囚人から、罵声の洗礼を浴びる始末となった。

 

「やかーーしーーわい! こん隣りん野郎がぁ!」

 

「おっと、これは失礼してしまいまんがな☀」

 

 一応の抗議を受けたので、二島は彼にしては珍しく、押し黙ることに専念するようになった。

 

 もちろんこれにて、懲りたわけでもないのだろうが。

 

 その代わりでもなかろうけど、留置場の入り口の方向からカンカンコンコンと、こちらに向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「けっ! わざわざここまでちばけ(岡山弁で『ふざける』)に来たようじゃのぉ☠」

 

 二島がひとりでおしゃべりと沈黙を繰り返していた間、ジッと無言を通していた板堰にとって、その足音は心当たりと聞き覚えのあるモノだった。


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