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『剣遊記番外編U』

第三章 さらわれた魔剣、囚われの戦士。

     (6)

 三人の周辺を喫茶店ごと、何十人もの衛兵たちが取り囲んでいた。それも板堰たち以外の、なんの関係もない他の客たちもろとも。

 

「なにか……囲まれるような心当たりでもお有りで?」

 

 たった今までの能天気ぶりとは、まさに真逆の対応というべきか。神妙な顔付きになった二島からの再度の問いかけに、板堰はやや冷静さを取り戻してから答えてやった。

 

「まだわしらと決まったわけじゃねえけんのー……と言いたいとこじゃが、そうもいかんようじゃのぉ☠ それに心当たりがあるとすれば……あいつらじゃな☛ わしらを見つけて、ほんまうれしそうな顔しとるけのー☢ なにを吹き込んだか知らんのじゃが、あいつらが衛兵隊をそそのかしたに違げえねえじゃろう☠」

 

「なるほど……ですな☠」

 

 板堰と二島は、同時に気がついていた。喫茶店を取り囲む衛兵隊の中に、例の三人組が混じっている様子を。

 

 麻司岩と脛駆と、もうひとり。黒衣の魔術師たちが。

 

「確かにあのお方たちしか、このような真似は行なわないでしょうな☁」

 

 二島は完全納得の顔で、板堰にうなずいた。このように深刻顔の男性ふたりとは対照的。

 

「ねえ、なんがあっとうか知らへんのやけど、あんな連中、さっさと片付けてしもうたら? ここは一番、あたしが腕を奮ってやるさかいにね♡♡」

 

 ワクワク顔の千恵利が、盛んに戦闘をそそのかしてくれた。しかし板堰はこれに、頭を横に振って応じてやった。

 

「千恵利は剣に戻って、鞘に隠れるんじゃ✄ これぐれえの相手じゃったら、わざわざ剣でぶりゅーつける(岡山弁で『勢いをつける』)こともないけんのー⛱」

 

「ぷうっ☠」

 

 魔神の娘が不服そうに、ほっぺたをプクッとふくらませた。ここで千恵利をふくらませた板堰の右手の拳には、愛用である例のナックルダスターが、素早く装着されていた。

 

 あの三人組のような下賤な連中相手に魔剣を繰り出すなど、板堰は最初っから考えの外に置いているのだ。

 

 だが、そのような明らかなる無謀など、二島が容認するはずがなかった。吟遊詩人は戦意を充実させている戦士を抑えるかのようにして、彼よりも前に一歩を踏み出した。

 

「それはあきまへんがな⛔ 確かにここが誰にも迷惑などあらへん人里離れた山の奥地でさえあれば、この私もあなた様の行動を一部黙認したかもしれまへん⛑ しかし、ここは大都会大阪市のド真ん中であり、おまけに関係あらへん一般市民の方々が周りに多くおられますし、さらに付け加えれば、衛兵隊は立派なお上の皆はんなのですから、彼らに手を出しはったら、あとあと仰山面倒なことになりはるでしょう⚠ そやさかい板堰殿には、ぜひともここで穏忍自重をお求めいたしたいのですが✋」

 

「それじゃ、ここをどげーやって切り抜ける気じゃ?」

 

 進退窮まっている板堰に対する、次のセリフが二島の返答であった。

 

「やむを得えまへんな⛽ ここは話し合いにて解決といきましょうや♥」


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