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『剣遊記番外編U』

第三章 さらわれた魔剣、囚われの戦士。

     (4)

 買い物も無事(?)に終了。三人は難波にある喫茶店で、旅の疲れ落としを兼ねて、飲み物を所望していた。

 

 実はあのあと、千恵利が剣の姿に戻って鞘に入ってみたところ(店主には見えないようにして)、大きさが剣身とはまるで不一致であったのだ。

 

そこでけっきょく、千恵利が一番嫌がっていた、最も地味な茶色の鞘で我慢してもらう結果となっていた。

 

「ぶう……☠」

 

 もちろん千恵利は、もろ不満でいっぱい。しかし今となってはもう、返品のしようもなかった。

 

「まあ、良いではないですか☆ こうしてあなた様にも、きちんと収まれる場所ができたわけでございますから☺ これが人であれば、ご自分の城を手に入れたような話なんですぞ♡」

 

 コーヒーを美味しそうに賞味しながら、優雅にささやく二島の姿は、まさに正統派。旅のエルフ――吟遊詩人そのもの。また二島に対抗するわけでもないが、戦士の板堰も新たに調達した灰色のマントがよく似合って、周囲に独特な雰囲気をかもし出していた。

 

「なあ、それにしてもやで☜」

 

 千恵利は二島のセリフなど耳には入れず、もっぱら板堰だけに話しかけていた。

 

「なんじゃ?」

 

 コーヒーを飲む手を止め、板堰は千恵利に聞き耳を立てた。千恵利はテーブルの上に両手を置き、板堰だけを見つめていた。

 

「あたし、ずっと思うとったんやけどぉ……まもる君ってぇ、戦士にしてはずいぶん丸い性格しとうもんやねぇ……それって昔っからの性格なんやろっか?」

 

「ぶうーーっ!」

 

 板堰は思わず噴き出した。これがコーヒーを飲んでいる最中であれば、間違いなくテーブル上にぶち撒けていたところ。

 

「わしが丸いじゃとぉ〜〜?」

 

 戦士稼業を始めてけっこう長い年月になるんじゃが、こげーなこと面と向かっておらべられたんは初めてじゃ――と、板堰は口には出さないようにしてつぶやいた。とは言え、思い当たる節も、また事実のような気がしていた。

 

「……わしの性格が丸いけー……♋」

 

 先ほどと同じ、口から出たセリフを、板堰は今度は、穏便な波長に変えて反復した。

 

「……こげー見えても、わしゃあやっちもねー師匠を張り倒した前科もあるほどの外道な男なんじゃが……今はそげーな風に見えるんかのぉ……♾」

 

「それやったら私かて、千恵利はんと同意見でんなぁ♡」

 

 ここで二島も話に参入。

 

「これでも京都で初めてお会いしたときには……今やからこそ申しますんやけど、正直あなた様ににらまれまして、背中がゾクッと震えたものでございましたんやで♋ それが今や闘志こそ、そのとき以来まったく変化はございませんのですが、これは殺気と申しましょうか☛ 荒々しい気迫のみが、なんや消え失せたような感じがいたしておりまんのやが☪ これは私が愚考いたしまするに、なにか精神的な圧迫でもありまして、それに抵抗するよりもむしろ受け入れる方法によりまして、無用なる殺気を克服いたしたように、この私は感じ入るしだいにてございまする✍ それもあなた様が無意識のうちにですな✊ このような感じの意見でいかがでしょうや♪」

 

「精神的な圧迫けー……✄」

 

 二島の相変わらずド派手に長い考察であったが、板堰はなんとなくの気分で、その意見にうなずいた。

 

板堰には実は、その考察に近いと思われる心当たりが、あっていたりもするのだ。

 

(そりゃあんたの長話と、千恵利のビックリするような登場の仕方しかねえじゃろうのぉ……さすがのわしかて、驚きの連続やったけんのー☃)

 

 この考えは板堰自身を、再び苦笑させた。

 

 本人たちに直接言っても理解されないだろうが(あるいは否定されたりもして☻)、今のところそのふたつ以外、大きな理由は見当たらなかった。

 

「これぞ『ケガの功名』ってもんかのぉ?」

 

「なんやねんな、それって?」

 

 板堰の独り言に、千恵利が小首を左に傾げていた。


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