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『剣遊記番外編U』

第三章 さらわれた魔剣、囚われの戦士。

     (3)

「ねえ♡ あたしん鞘が決まったさかい、早よう勘定してやぁ♡♡」

 

「あちゃ〜〜っ☠」

 

 自分自身についての考え中を突然中断され、板堰は今度は、自分の頭全体を両手でかかえた。その中断の張本人である千恵利は、自分の両手に青い色柄で、全体に何個もの宝飾品を埋め込んだ長めの鞘を持っていた。しかし彼女は鞘よりも、戦士が新たに背中にかけている灰色マントのほうに、逆に興味の対象を変えたようだった。

 

「なんやねんな、それ? それってマントやの? なんや灰色ばっかで、すっごう地味な感じやねぇ☠」

 

「ま、まあ、確かに地味じゃがのぉ♠」

 

「これは私がお勧めしたもんなんですよ♡」

 

 見たまんまの現状を言われ、板堰は苦笑した。そんな戦士に代わって、二島が千恵利に説明した。

 

「これも戦士のひとつの装備でございまして、板堰殿にはこれからこのお姿で剣の道を極めていただきたいと、この私がお節介ながらもマントの着用を進言いたしたしだいなんでございまんのや♡ もちろん他に他意はございませんゆえに♪」

 

「ふぅ〜ん、そう……☻」

 

 もっとも千恵利には、マントへのとことん的な関心はなかった。それよりも自分が気に入ったらしい鞘を、改めてふたり(二島と板堰)の前に、両手に乗せて差し出した。

 

「マントもええんやけどぉ、この鞘あたしが好きになっちゃったからぁ、これ買ってぇなぁ〜〜♡ なあ、ええやろ♡♡」

 

「この鞘けー……⚇」

 

 板堰も拝見させていただいた、千恵利お気に入りの鞘とやらは、ひと目見て宝石などで飾り過ぎの感があった。だが、何事にもこだわらない性格をここでも自認した板堰は、その鞘に収まる本人(?)が喜んでいるのだから、特に文句を言う気もなかった。

 

 それでもあえて問題にするとすれば、高額そうな鞘の価格と(正直……買えんかもしれんけー☠)、もうひとつの件だけとなろう。

 

「まあ……千恵利がそれでええっちゅうんじゃから、わしゃあなんでもええんじゃがのぉ♧ で、ちゃんと自分のサイズに合うかどうか試したんけ?」

 

「あっ! 忘れとったわ!」

 

 一番大事な点を板堰から指摘され、すぐに千恵利は振り返り。自分のうしろでイライラ気味に立っている店の主人に訊いた。

 

「すんまへんなぁ♡ ここって試着室どこやねんな?」

 

「へっ? どないやっちゃ?ねん!」

 

 店主の両目が再び、しかもきょうまで生きてきて、恐らく一番最大的に見事な点となった。


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