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『剣遊記番外編U』

第三章 さらわれた魔剣、囚われの戦士。

     (1)

「う〜〜ん☁ この鞘の色柄……なんか地味やなぁ……☁」

 

 などと千恵利がわがまま放題をほざいている所は、商都大阪市にある、とある武具屋の店の中。

 

 金剛山での一夜を過ごした三人は、朝を迎えるなり即座に下山を決行。ほぼ一日を費やして、大都会大阪市への潜入を成功させていた。

 

 本来ならばここで、二島のもくろみどおり、おとなしく潜伏をしているつもりであった。ところがいきなり、千恵利が自分を収める(?)鞘の購入を要求。

 

「なあ! あたしの新しい鞘買ってえなぁ♡ 剣がいつまでも剥き出しんまんまやなんて、けったいなことやっち思わへん?」

 

 おまけに二島も、千恵利のわがままに同調したのだ。

 

「そうでんなぁ☺ 確かに新品の剣を手に入れられたからには、鞘は必需品となりまんな✍ よろしければこの大阪に、私がよう知ってる旧知の武具屋がございますので、そこへご案内いたしましょう♡」

 

「そうじゃのう✋」

 

 けっきょく板堰も、ふたりから背中を押される格好。エルフの吟遊詩人が言うところの、天王寺にある武具屋を訪れたわけ。

 

 ちなみに現在、板堰の腰のベルトに装着をしている鞘は、以前に備えていた剣の付属品。従って今は空き家――もとい空{から}となっていた。それが千恵利の剣身には合わない事情も、新しい鞘を求める――いや、求めないといけない理由のひとつになっているのだ。

 

 こうして冒頭からの展開どおり、千恵利の新品鞘探しが始まったわけ。

 

「え〜〜っとぉ、あたし茶色一色やなんて趣味やあらへんなぁ〜〜☂ それにぃこっちの鞘もぉ、全然カッコ悪いモンばっかやなぁ〜〜い☠

 

 さらにこれまた前記のとおり、千恵利のわがままの言いたい放題が続いていた。

 

「やっぱ女子{おなご}の買いモンは、時間がかかるもんじゃのぉ☠」

 

 この有様をある程度予測していた板堰は、端で千恵利のショッピング風景を眺めながら、ただ悠然と時の流れを待つだけにしていた。しかし、千恵利の応対をさせられている店主としては、これはたまったものではなかった。

 

 初めは珍しい金髪碧眼の西洋美少女である千恵利に、つい鼻の下を伸ばしていた横山やすし似のメガネ店主であった。ところが今は、頭から激しい湯気を立て、彼女に文句を言い立てた。

 

「ちょっとあんたはんねぇ、これは衣装選びやあらへんのやでぇ♨ そやさかい、なんで戦士が使いはる剣の鞘を選ぶんにかわりべんたん、かわりべんたん、なんで女のあんたがでしゃばりまんのや☠♨ あたしゃ武具の商売始めて長いんやけど、あんたみたいなけったいなお客はんは初めてやで、ほんま♨ 正味の話、怒るでしかし!」

 

 だけれど、これに対する千恵利の返答が、これまたブッ飛んだ内容のシロモノだった。

 

「そやかて、これはあたしの服選びなんやもん♡」

 

「はあ?」

 

 店主の両目が点になった。


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