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『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (9)

「あっちゃあーーっ! おいらが仕掛けた罠が、あっさりバレちゃったべぇ!」

 

 茂みの影から孝治たち一行を監視中である見張り役の子分――根津紺が、歯ぎしりをしてくやしがった。

 

 早い話。落とし穴の下手人は根津紺なのだ。こいつは偶然とはいえ、戦士一行が罠を仕掛けた道を通る様子を見て、これは手柄を立てる絶好のチャンスと、一時は息込んでいた。

 

ところが簡単に見抜かれて、見事に意気消沈したわけである。

 

「びっしょったない(群馬弁で『だらしない』)のぉ☁ おいらもまだまだ、駆け出しだんべぇ☹☹」

 

 もっとも、あのような幼稚極まる罠では、駆け出し以前のそれこそ卵か精子の段階ではなかろうか。もちろん実際に新米の山賊なのだから、それも仕方がないのかも。それにもともとは、山を通る通行人への嫌がらせ。ちょっとした軽い気持ち(そのくせ根暗)でこしらえただけの罠だったのだ。

 

 そんな根津紺の真上から、突如一羽のカラスが、バサバサバサッと舞い降りた。

 

「なんかい? ずいぶん馴れ馴れしいカラスだにぃ☻」

 

 ところがカラスは、怪しがる根津紺にはお構いなし。

 

「かぁーーっ!」

 

 ひと声高く鳴き声を上げ、その姿をパッと人間に変えた。

 

「おれだがね、おれ!」

 

「げっ!」

 

 その人間は、根津紺もよく知る男だった。

 

「無蚊寅かい! おめえさいつから人間さ廃業して、鳥に生まれ変わったんだべぇ?」

 

 このセリフに、当の無蚊寅が噛みついた。

 

「違うだに! 可奈の姐御から魔術さかけられて、カラスに変身でぎるようにしてくれだんだよぉ★」

 

「ほう、そうなんけ♠」

 

 これにて根津紺も納得。実際可奈の魔術力には、根津紺も一目置いていた。

 

「そりゃ便利なもんだべぇ……で、なんの用で来だんだ?」

 

「実はな……☛」

 

 無蚊寅が隠れ家での経緯を、根津紺に言い聞かせた。それによると、やはり成昆布親分は、大男の戦士に復讐する気でいるらしい。

 

「……なるほどぉ〜〜✊」

 

「そういうことだに☆ で、根津紺、やつらの行ぐ先はわかるだべ?」

 

 とりあえずの伝言を終えた無蚊寅の問いに、根津紺は自信たっぷり気で応じた。

 

「それならやつら、赤城山のてっぺんさ登っでんのは間違えねえ☆ この道の先は、山のてっぺんしかねえがらなぁ☝」

 

 赤城山に潜伏を始めてから、まだ日は浅かった。それでも山の随所随所は、かなり把握をしているつもりだ。

 

「わがっだ☀ そんこと親分と姐御に言っておくだに✈」

 

 一応任務を果たした無蚊寅が、その姿を再びパッと、元のカラスに変えた。ところがカラスが飛び立とうとした直前だった。

 

「ちょい待つだにぃ、無蚊寅よぉ✌」

 

「かぁ〜〜?」

 

 根津紺がいきなり、カラスを呼び止めた。それからよけいな小言をひとつ。

 

「おめえさの真っ裸、あんましみっとがねえもんでねえぞ☞ この際一生、カラスんまんまでいろや✌」

 

「かぁーーっ! かぁーーっ! (大きなお世話だべぇ!)」

 

「痛ででででっ!」

 

 カラス――無蚊寅が太いくちばしで、根津紺の頭を三回突いた。それから立腹したまま、隠れ家の方向へ飛んでいった。


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