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『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (6)

 山賊たちの新しい隠れ家は、登山者のための山小屋を占領した建物だった。その外見は大型の丸太小屋であり、このような目立つ建物であれば、ふつうは隠れ家とは言えないはず。しかし山賊どもはそう呼んでいるのだから、これはこれで仕方がないと言えるのかも。

 

「ふぅ〜ん♠ そんでぇ、おめの兄さんを倒したぁ、一年前の戦士が来てるんずらぁ?」

 

 山賊の新親分――成昆布が期待をかける強力な味方。その人物は部屋の真ん中に山小屋では不似合いな大型の赤いソファーを置き、堂々とした姿勢で鎮座をしていた。それも自分の両側に、成昆布が集めた新人山賊どもを十人ひざまずかせての、まるで女王様気取り――いや、実際にそのとおりだった。

 

 彼女は黒衣で身を包んだ、見た目にわかる魔術師であったから。

 

「いえ……別に倒されたわけでねえだど……☁」

 

 思わず口応えを返そうとした成昆布を、女魔術師が切れ長の瞳で、キリッとにらみつけた。とたんにたったそれだけで、成昆布が「お〜怖っ☠」と、亀みたいに首をすくめた。

 

 女魔術師――椎ノ木可奈{しいのき かな}を前にして。

 

「あっ……す、すいやせん……可奈姐さん……♋」

 

 成昆布ほどの男が、これほどまでに低姿勢になる理由は、これから山賊親分としての威勢を張るためには、どうしても魔術師――可奈の力が必要であるからだ。従って、どのような些細な行ないでも、可奈の機嫌を損ねるわけには、絶対にいかなかった。

 

 偶然同じ日に、同じ刑務所から出所したことが縁の始まり。悪者同士の付き合いとなったわけ。しかし、その真の実力差を見れば、成昆布のほうが一生頭が上がらないであろう将来の成り行きは、今からはっきりと目に見えていた。

 

「そんでこのあたしにぃ、兄の仇さ討ってほしいずらね♐」

 

「だ、だからぁ、別に死んでるわけじゃねぇ……あっ、いえ……死んでてええだがね♋」

 

 成昆布を二度にらんで黙らせ、可奈がソファーから立ち上がった。

 

「あたしもこの赤城山に探し物さあって、おめの話に乗ってきたんだけんど、そん前に大男の戦士退治ってのも余興ずらねぇ♡ わがっだ✌ おめの恨み、この椎ノ木可奈が晴らしてやるずらよ✌」

 

 山賊たちの間からパチパチパチと、まばらな拍手が湧き上がった。その光景を眺めながら、成昆布は内心で、少々の不安を抱いていた。

 

 完全に大見得を切っている可奈の、少し常識から外れた感じである調子の乗りように。

 

(姐さんも、魔術の腕さはええんだどもぉ……性格が問題だんべなぁ……☠)


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