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『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (19)

(美奈子さん……この場で話ば作りようっちゃね✌)

 

 孝治にとって美奈子の本性など、付き合い始めたころからの定番。けっこう嘘は吐くし、悪い意味で、臨機応変が得意でもある。だけど、今それを魚町に言ったところで、話がさらにややこしくなるだけだろう。

 

(なんも知らんほうがええこともあるけ、今は黙っとこ✍)

 

 孝治はだんまりを決め込んだ。そのために魚町は、美奈子の言い分を、良い方向へ解釈をしてくれた。

 

「なるほどぉ、あの『かな』とかいう魔術師は、自分の魔力ば高めるために、この社にあるお宝ば狙っちょうわけっちゃね☢ で、美奈子さんはそれば阻止するために、この赤城山まで来たっちゅうことやね☀」

 

(先輩……それって話をええほうに持って行き過ぎやけ……汗☠)

 

 孝治は内心ヒヤヒヤもの。だけど今さら、先輩への再説明も面倒。このまま成り行きに任せるようにした。

 

 どんなに話が転んだところで、敵(可奈)と一応味方(美奈子)の構図がはっきりしているので。

 

「どうでもええんだけんどぉ、早く取ってきてほしいずらよぉ✁ この娘っ子がどうなってもいいずらか?」

 

 話が長くなって、イライラ感が増えたようだ。可奈が千夏の頭を、ポンポンと軽く右手で叩いた。

 

「あああん♡ 千夏ちゃん、怖いさんですうぅぅぅ♡ 泣きそうさんですうぅぅぅ♡」

 

(ほんなこつ怖がっとるんけ?)

 

 そんな疑問を、孝治は頭に浮かべた。それと言うのも、姉の千秋は妹のピンチに、もはや手を出す様子もなし。今やなぜか、落ち着き払った態度でいるからだ。おまけに当の千夏自身が、小さな口の端に、微かな笑みを見せつけていた。

 

 一応泣いている顔ではあるのだが(涙なし)。

 

 もちろん人質が今どのような顔をしていようと、可奈にはなんの関係もしない話であろう。悪の女魔術師は、苛立たしげにわめくばかりの態度でいた。

 

「あたしだって、他にもいろんな場所で見つけたお宝を遠くの場所に隠しとうさけぇ、これにもっとコレクションさ加えたいずらよぉ!」

 

 わめきついでに可奈がまた、よけいな私事{わたくしごと}を口走ったようだ。

 

「ほう、コレクションどすか♐」

 

 とたんにカラス(無蚊寅)にやられてダメージ大であったはずの美奈子が、背筋をビシッと直立させた。孝治もビックリするほどの勢いで。

 

「うわっち!」

 

「お、おい……もう元気になったとね?」

 

 これには孝治はもちろん、魚町も目をパチクリさせていた。例外は弟子の千秋だけ。いつの間にか美奈子の元に近づいて、そっと右の耳にささやいていた。孝治にも丸聞こえの声で。

 

「師匠、こら金儲けのチャンスやで✌✌」

 

 実の妹が人質状態など、まるで関係なし。むしろ火に油を注ぐような言動をしでかした――と思ったら、当の人質である千夏までが、顔を上げて可奈に尋ねていた。

 

「それってぇ、ほんとなんですかぁ?」

 

「おめってえずらねぇ✃ こん娘っ子ときたらぁ!」

 

 これにてイライラが、さらに高じたようだった。思わずの感じで怒鳴り散らす可奈であったが、千夏のあどけない童顔と視線が合うなり、いきなり変なセリフをつぶやいた。

 

「……あら? この娘っ子さ……どっかで見たこんあったべかぁ?」

 

 この次の瞬間、またも驚くべき事態が連続して発生した。


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