前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (18)

「さてと☀」

 

 孝治たちの戦力低下を成し遂げ、可奈が千夏を捕えている無蚊寅に足を向けた。

 

「この娘っ子はあたしが抑えるだにぃ、おめは仲間のヒモさ解いてちょうだい♐」

 

「姐さん……ちょっとええだんべか?」

 

「なんずら?」

 

 やや消極的ともいえる態度の無蚊寅に、可奈が面倒臭そうな目線を向けた。その気迫に押され気味ながらも、無蚊寅がボソボソ声で答えた。

 

「……そろそろぉ……服さ着させてほしいんだどもぉ……あっしひとりだけなんだべ、さっきからフ○○ンでいるんは……☠」

 

 これに可奈が一喝。

 

「こん大事なときに贅沢いってぞざえるもんじゃねえずらよ! あんましおめってえこん言うもんじゃねえ!」

 

「へ、へい……☁」

 

 無蚊寅が仕方なさそうにしょぼしょぼと、大事な個所を両手で隠しつつ、親分と仲間たちの解放に向かった。

 

 魔術でカラスに変身できる能力を得た僥倖はけっこう。だけどこれでは、ただ赤っ恥をかくだけの結果だろう。

 

「さぁて、そっちのおふたりさんだらねぇ♐」

 

 無蚊寅に代わって千夏を抑えた可奈が、次に目線を向けた先。当然魚町と孝治の、戦士ふたり組だった。

 

「その社の中に、大きな宝があるそうしない♠ ちょっとそれさ取って来てくれんずら?」

 

「宝ぁ?」

 

 可奈の発言に、孝治は過剰気味で反応した。

 

「あ、あんたらも社の中んこつ、知っとうとね?」

 

 慌てて問いただす孝治に、可奈が勝ち誇った者の強みで応じてくれた。

 

「おめさ九州のモンずらね☞ それよりおいだれは村のモンさに聞いたと思うんだども、あたしはあたしで文献さ調べて、この赤城山にお宝があるってこん知ってるずらよ✍ そうでなぎゃ、誰がこんな山のとんびねまで来るって言うずらか✌」

 

 強気になれば、誰も訊いていない本心までも教えてくれる親切心(?)。これは全世界の悪役に共通する習性であろうか。

 

「赤城山のお宝狙いけ✄ 邪{よこし}まな人間の考えることっち、そげなもんばいねぇ♣♠」

 

 孝治の頭の真上の位置で、魚町が忌々しげにささやいた。すると今度は、美奈子がうつろそうな瞳で、明らかに孝治と魚町向けで言ってくれた。

 

「……実はうちらも……その話は知っておったんどすえ✑」

 

「ほう、あっちの魔術師と同じように、文献でも調べとったんけ✐」

 

 魚町も美奈子に聞き耳を立てた。やはりずっと高い位置から。

 

 美奈子の説明が始まった。

 

「実は……この赤城山のお宝には、魔術師にとって、とても大きな力の源になると言わはる伝説がありまんのや✈」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system