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『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (15)

 捕り物はあっと言う間に終了した。

 

 孝治や美奈子たちの活躍はもちろんのこと。やはりなんと言っても、魚町の巨大過ぎる存在感が、大いにものを言った感じとなった。

 

 実際に魚町が、愛用の戦闘斧を振って岩を砕くだけで、山賊どもが、あえなく戦意を喪失。これは孝治や裕志たち後輩連が見たわけではないのだが、一年前とまったく変わらない展開が起きたらしい。

 

「きゃあ、すてきだわぁ♡ 去年の勇姿の再現だべぇ♡」

 

 静香が翼をバタつかせてはしゃぐ様子は、もはや言うまでもないだろう。恐らくバードマン娘の瞳には、その他の者たちなど眼中外。ただ魚町の巨体だけが写っているに違いない。

 

 とにかくこれにて、成昆布以下九名。あっさりとお縄になったわけ。

 

「さて、この方たちはここに置いとくことにいたしはって、うちらは試練の品を探すことにいたしましょうえ♐」

 

 山賊退治は、あくまでもついで。美奈子が本来の目的である、お宝探しの再開をうながした。そのため疲れたと言って地面にしゃがんだ孝治と裕志のふたりを、無理矢理急き立てる始末。例の社へと向かわせてくれた。

 

 孝治たち一行も、すでに社の存在に気づいているのだ。

 

「静香はん、この社の中にお宝が入っとるわけどすな☛」

 

「え、ええ……そうだべ……☹」

 

 本当は静香と魚町が受ける試練のはずなのに、それよりも妙に熱心な、美奈子の積極ぶり。静香の顔に、(この人……やっぱり変な人☠)と言いたそうな表情が浮かんだ。

 

 そんなバードマン娘など、これまたまるでお構いなしの態度。美奈子が静香と並んで、社の入り口前に立つ。ところが社の扉には、かなり大きな南京錠がかかっていた。

 

「おや? 鍵がありますえ★」

 

「あっ! いっげねえーーっ!」

 

 静香が素っ頓狂な声を上げた。

 

「考えでみればこの社さ開くときっで、年に一度の成人式の日だけだったべぇ✍ それもしばらぐ中断しどったうえに、きょうは例外で特別にここまで登っだわげだがらぁ、鍵が開いてるわげながったんだぁ!」

 

「うわっち! そんじゃおれたち、なんのためにこげな高い山に登ったとやぁ!」

 

 思わぬ静香の失敗談。赤城山の山頂まで付き合わされた格好である孝治の身に、ドッと疲れがぶり返した。

 

「せめて親父さんから、鍵くれえ預かって来いよなぁ✄」

 

「ごめぇ〜〜ん☠ ととどんもあたしも、こんことさうっかり忘れとっただにぃ☂ あたし、ひとっ走り村まで飛んで、鍵さもらってくるべぇ✈」

 

「頼むっちゃよ☞☞」

 

 孝治は静香に念を押した。

 

 ここで一般の人間ならば、高い山からいったん降りてまた登る――といった、愚行の繰り返しとなるであろう。しかしバードマンなら、そのような苦労は無用。そういうわけで、静香が山頂と村を往復して鍵を取ってくる間に、孝治たちはひと休みでもしておこうかと考えた。ところが、社の前に立っている美奈子が突然扉に向け、両手を差し出す仕草を始めた。

 

「ちょっとお待ちになってや☆ この程度の錠前どしたら、うちの術で簡単に開けることができますさかい☀」

 

「えっ? そりゃまぁずな話だべ?」

 

 静香が半信半疑ならぬ、三信七疑な顔をした。だが友美と孝治と涼子にとっては、『あの日』の魔術の再現であった。

 

「そげん言うたら美奈子さん、霧島の祠{ほこら}んときも、鍵なしの『解錠』の術だけで開いたっちゃねぇ

 

 友美が美奈子との、初めての冒険行を思い出したようだった。

 

「そうっちゃねぇ……✎」

 

『うん、そうやった✌』

 

 孝治と涼子もうなずいた。

 

 この三人のうしろでは、由香が裕志に、美奈子の行動の意味を不思議そうに尋ねていた。

 

「あの魔術師、いったいなんするつもりやろっか? さっきから両手ば扉に当てて、なんかぶつぶつ言いよっとやけど♋」

 

「あれは閉まっちょる鍵ば開く呪文ばい♐ 一応ぼくにもできる、初歩的な魔術なんやけどね♠」

 

 あれほど恐れていた山賊が、簡単に捕まっているためであろうか。裕志の口調には、かなりの余裕が取り戻されていた。それから全員が、注目している前だった。

 

 ガチャッ、ギギィィィィィィと、気味の悪いきしみ音を立て、社の扉が独りで前向きに開き始めたのだ。


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