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『剣遊記X』

第四章 山賊との遭遇。

     (14)

「な……なんで俺たちがここにおるのがわがったんかい?」

 

 完全に呆然の顔でつぶやいている成昆布の目には、大型戦士と女戦士が各一名ずつ。それと男と女の魔術師も一名ずつ(これはふたりが黒衣を着用しているから、だいたいわかるのであろう)。整然と並んで写っているに違いない。

 

「魔術師は男んほうが、やけに顔が青いのぉ♋」

 

 これは成昆布の、つまらないひと言。さらに武器は持っていないようであるが、鎧を着ている女がふたりと、白い翼を持つバードマンの女もいる。

 

 ついでに例の、同じ顔をしたガキんちょふたり。これで成昆布が洞窟の前で確認していたメンバーと、同じ顔ぶれがそろったといえそうだ。

 

 とにかくこれにて、総勢九人(本当は幽霊も含めて十人)。さらにおまけで、もうひとりがいた。

 

 しかし今となっては、すべてがぶち壊し。本来ならば、こうして敵がそろった時点で、奇襲をかける算段だったのだ。

 

「おまえたちがここにおるって教えてくれたと、こいつのおかげったい✌」

 

 成昆布の目から見て女戦士――孝治は、自分のうしろに引き連れている小男を、引っ張り出すようにして前へと突き出した。

 

 紐でグルグル巻きにされている根津紺を。

 

「ああっ! 根津紺、おめえ!」

 

「すいやせん、親分☁ ちゃんと隠れで見張っどっだのに、どうしてかいきなし見づがったんだべぇ☂」

 

 捕らわれの身となっている根津紺が、すまなそうにペコペコと、何度も頭を下げる。

 

 根津紺自身は自分が捕まった理由が、実はまったくわかっていなかった。それも恐らく、一生わからないであろう。孝治一行を密かに見張っていた根津紺を逆に見つけた功労者は、なんと涼子なのだから。

 

 経緯は、涼子が偵察気取りで、孝治たち一行の周辺を巡回中だった。偶然にも草むらに隠れて監視を続けていた根津紺を、真上から発見。すぐに孝治と友美に報告。結果、山賊の密偵は、あえなく御用となったわけ。

 

「どうしてこうも呆気のう見づがっぢまったのかぁ……おいらにもさっぱり見当つかねんだ、これが☠」

 

 まさか一行の中に幽霊がいようとは、思いも寄らない話であろう。

 

 当たり前か。

 

 とにかく縛られた根津紺は、今も首を右にひねるばかりでいた。

 

『どげんね☀ これであたしが充分以上に活躍できるっちこつ、ものすごわかったでしょ☆』

 

 この思わぬ手柄に、涼子はもう鼻高々。ところがあいにく、真実を知っている者は、孝治と友美のふたりだけ。実は他のメンバーたちも、いきなり山賊の密偵が捕まった事態を、不思議がっているのだ。

 

「孝治って凄かっちゃねぇ☀ 今回ぼくかて、隠れとったもんの気配がわからんかったけねぇ♐」

 

「そうどすえ☆ 魔術師のうちでさえ気ぃつかんかったもんが、ようわかりはったもんどすなぁ✌ これは孝治はんを見直しましたどすえ☆」

 

 裕志はもちろん、美奈子までが手放しで感心してくれた。無論魚町も、大喜びの絶賛ぶり。

 

「でかしたばい、孝治! しばらく会わんやったうちに、おまえも勘ば冴えるようになったもんやねぇ☀☀」

 

「いやぁ……まあ、そのぉ……☁」

 

 本当は涼子のお手柄なのだが、幽霊の存在を隠している立場上、孝治はどうしても真実が言えなかった。ここは足の裏を思いっきりにくすぐられまくるような、噴き出したい気持ち抑えているしかなさそうだ。

 

 長くなりそうなので、この件はこれにて置いておく。孝治は成昆布に瞳を向け直し、今度はしたり顔のつもりで言ってやった。

 

「こいつ、捕まったとたんにあんたらのことば、ペラペラしゃべってくれたっちゃね♡ おかげで罠んことも全部お見通しやったとばい☞」

 

「へい、そんどおりです☃ この女の戦士さん♂ まるでヤローみてえにおいらさ拷問で体中くすぐっでくれたもんだで、つい洗いざらい白状しだんだべぇ☁ すいやせんねぇ、親分♥」

 

 これで本当に、成昆布に申し訳ないと思っているのかどうか。とにかく多少孝治の気に障る、根津紺の言い訳だった。

 

「ヤローで悪かっちゃねぇ♨」

 

「痛でっ!」

 

 孝治はうしろから、根津紺の後頭部を右手でポカリと殴ってやった。

 

「そ、そんでおめえら、おれたちさ逆におびき出すために、こんな無垢な子供さ囮にしだんだべか?」

 

 それじゃおれたち山賊より、ずっと非道だんべぇ――と、成昆布は言いたかったようだ。

 

もっとも孝治たちに、聞く耳はなし。それにこの作戦は、千夏がふつうの子供とはどこかが違う――と踏んでの策略。しかも発案および推進者は、師匠である美奈子なのだ。

 

そのような裏事情など、ただいま戦慄中である山賊どもにとって、もはやそれどころではない話であろう。

 

「お、おっとろしいやつらだべぇ☠」

 

 そんな戦々恐々の成昆布など、完ぺきに無視。孝治は腰の剣を抜きながら、魚町を見上げて尋ねてみた。すでに孝治はやる気満々なのだが、一応先輩の顔を立てる気配りも忘れなかった。

 

「さて先輩。こいつらどげんします?」

 

「そうっちゃねぇ〜〜✐✍」

 

 山賊のひとりをいまだ右手で持ってぶら下げたまま、魚町が孝治にうなずいて、軽くひと言。

 

「全員、捕まえるばい♪」


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