『剣遊記X』 第四章 山賊との遭遇。 (11) 子分どもの配置は、すでに完了済みとなっていた。だけど、敵である戦士一行の到着までは、もうしばらくの時間がありそうだった。
彼らの動向は見張り役の根津紺からカラスの無蚊寅を通して、逐一報告をさせるように命じていた。従って、その辺の抜かりはないつもりであった。
しかしそこのところは、むしろ不幸中の幸いとするべきであろう。なぜなら無理な山登りで消耗させた体力を回復させるのに、貴重な時間が稼げたわけであるからだ。だからその間、一時的な睡眠をむさぼる者。腹ごしらえに、携帯食である木の実をポリポリとつまむ者。山頂からの風景を眺めている者。三者三様十人十色で、それぞれが暇をつぶしていた。
また親分の成昆布も、愛用の山刀を、砥石{といし}で磨きをかけていた。
実際に使用する機会があるのかどうかは、実のところ、成昆布自身にもわからなかった。だが山賊親分の威厳を保つ手段として、武器は絶対に欠かせねえだにぃ――とも考えているのだ。
「まっ、本番のときは姐さんが魔術でなんとかしてくださるだんべぇ★」
それでも本音は、けっきょくの他力本願。これで満足している姿が山賊の首領として、とても情けないとは言えないだろうか。
「親分、来ただべぇ☆」
「なんだど?」
このときそばで控えさせていた、頭に汚れた白タオルを巻いている子分からの報せに成昆布は、正直本心から面喰らった。
「ほ、ほんとなん? ちょっと早すぎじゃねえべぇ?」
「で、でもぉ、ほんとに来ちまっただにぃ……♋」
タオル巻きの子分も、困った顔をしていた。
「ほんとなんだがら、しょうがねえだよぉ……♋」
「どけっ!」
報告の子分を押しのけ、成昆布が自分で様子を覗いてみた。
ふたりが身を隠している場所は、社からは死角に当たる位置にある、巨大な岩の陰だった。その他子分たちも各々、木の上や雑草の茂みに潜んでいた。
可奈に至っては、潜伏の場所すら教えてくれていなかった。とにかく自分で気に入った隠れ場所を見つけたらしく、真っ先に姿を消していたのだ。
「はあ? ありゃ子供だんべぇ?」
成昆布が岩陰から覗いて見えたモノは、確かに見覚えのある顔だった。最初に魚町一行を見つけたとき、その中に混じっていた顔のはず。服装こそ違え、同じ顔がふたつ並んでいたうちの、茶色っけの頭髪でヒマワリの飾りもんが印象的だった娘に違いないようだ。
だけど、その娘だけがどうして先陣を切って、赤城山の山頂にひとりで現われたのか。その理由だけが、どうしてもわからなかった。
だが、確実に一行の仲間でもあるわけだ。
「親分……どうするだにぃ?」
恐らく、なんの心の準備もできていなかったのだろう。そんな動揺気味でいる子分に向け、成昆布が決意を固めて言い放った。
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