『剣遊記X』 第三章 旅は三角関係と共に。 (7) 「こ、こん人たちはぁ、進一さぁのお友達なんだべぇ☞☞ そんで遠く九州から、わざわざあたしたちさお祝いしてぐれるために、旅に同行してくれただぁ♡ みんなあたしの大事なお客様なんだがらぁ丁重におもてなしして、みっとがない(群馬弁で『みっともない』)ことするでねえど☻」
「ほう、そうがね☺ 君たちは進一くんの……」
娘の説明で、村長もようやく要領を得た感じ。改めて挨拶をしようとしたときだった。
「はい! お友達でおます!」
本当は魚町とは、一番縁が薄いはず。それなのに美奈子が、厚かましくも真っ先に名乗りを上げた。
「これは自己紹介が遅れまして、どうかご堪忍どすえ♥ うちは天籟寺美奈子と申しまして、御覧のとおりの魔術師を生業とする者でおまんのやわぁ♡ そしてこちらにおますんがうちの弟子でおまして、高塔千秋と千夏の姉妹でおます♥」
「千秋や! よろしゅう頼むで!」
「はっあああああい♡ 千夏ちゃんでっえええええええっすうぅぅぅ♡」
なによりもまず、自分たちの売り込み最優先である、美奈子と双子姉妹であった。これに孝治はもう、開いた口がふさがらない思いそのまんま。
「……美奈子さん、前ん旅んときゃすっごうしおらしかったとに、今回は丸っきり変わっとうっちゃねぇ☠ あれじゃまるで別人28号ばい✈」
「まあ、あんときは追っ手がおったもんやけ、命懸けの冒険になったっちゃね✍ それに比べたら今回は特に危険もなかことやし、かなり破目ば外しとんやろうねぇ……ちと外し過ぎっち思うっちゃけど☢」
孝治と友美で、こそっと美奈子についてささやき合っているそのそばでは、長旅疲れですっかり参っている裕志を、由香が一生懸命に介抱していた。
近くにあるイチョウの木の下に横たわり、由香の膝枕に裕志が寝ている格好で。
「それんしてもやねぇ……千夏ちゃん、相変わらず元気っちゃねぇ✌」
友美はもうひとり――魔術師の弟子の妹のほうである千夏も、少々気になっている様子でいた。
実際、三週間もの長いわらじを強行したにも関わらず、一行の中で最年少である千夏が、一番ピンピンと元気しているのだ。
同じ最年少の双子とは言え、姉の千秋以上に。
また裕志など、御覧のとおり。息の詰まりそうな三角関係のため、もはや青色吐息状態だというのに。
もっとも裕志がふらふらな状態には、三角関係以外にも原因があった。それは魚町のデカすぎる体格も、重要な一因だったのだ。
なにしろ裕志や孝治が五歩くらいかけて進む長さを、魚町はたったの一歩で済ませてしまうのだから。
でもって先輩の早過ぎる歩速に無理にでも合わせようとした結果が、目的地に着いたとたんのバタンキュー――と言うわけ。
「もう! 美奈子さんっち、旅の間中裕志さんにベタベタしとったくせにぃ、着いたとたんにほったらかしやない! やっぱりあの魔術師って、裕志さんの家柄だけが目当てなんだわ♨」
裕志にコップで水を飲ませながら、由香が美奈子に憤慨中。ところが孝治は今や、三角関係など他人事の気分。
「さて、これからが美奈子さんの本領発揮ってとこっちゃね✌」
そんな孝治の見つめる先で、問題の美奈子は静香の父――村長を相手に、早くも赤城山のお宝について、いろいろと質問攻めにしていた。
「まあ、うちらも日本全国に散らばりはるお宝について、常に研究を続けておまんのやけど、ここ群馬の宝や言うのは、正直初めてでおます♡ そない言うことでいったい、どのような歴史的価値がおますんかいな?」
「はぁ……そうだんべなぁ……☁」
しばらくはこちらの有様など、まるで眼中外。意に介する様子もなし。孝治はふっと、ため息を漏らした。
「まっ、とにかくここまで無事に来れて、やれやれってとこやね……あれ? そげん言うたら涼子んやつ、さっきから見えんとやけど……☁」
どうせ、この付近の山々が珍しいのだろう。それで勝手に飛び回っていると考えつつ、孝治は友美に訊いてみた。
「涼子は……まあ、だいたいわかるとやけど、どこ行ったとやろっか?」
返答は予想していた内容と、ほとんど同じ。
「涼子やったら、村に入る前に山んほうまで飛んでったばい☛ こげなとことっても珍しいっち言うてね☺」
「やっぱ『どうせ』のとおりやね✍」
「えっ? なんが『どうせ』やの?」
「いんや、おれが思うたとおりやったっちゅうこと✌」
尋ね返す友美に、孝治はやはり苦笑の気分で応えてやった。
「いっつもながら、行動原理のわかりやすか幽霊やけねぇ✌」 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |