『剣遊記X』 第三章 旅は三角関係と共に。 (6) 九州から北関東までの道のりは、さすがに長かった。
山陽道、東海道と東進。さらに東の帝都東京市から上越道を北上。全行程におよそ三週間。旅の描写は退屈なのでカット。一行はようやく、静香の故郷である群馬県の村に到着した。
「ととどん! 進一さぁ見つけて帰ってきただぁ!」
「でかした! そんでこそ、我が娘だんべぇ!」
ほぼ一年ぶりである、父と娘の再会――それも、見事本懐達成でのご帰還なのだ。おかげで村では、村民総出のお祝いが、盛大に行なわれた。それも花火をパン! パン! パン! パン! パン! と、何十発も派手に打ち上げるほどの、大袈裟な祝賀ぶり。これにはさすがの孝治も、思いっきり驚かせていただくに、充分すぎるくらいだった。
「さっすが関東の人間は違うっちゃねぇ♡ これが九州人やったらおとなしいけ、ここまではやらんけねぇ〜〜☆」
「そうっちゃねぇ〜〜☀ やっぱ日本っち、広かっちゃねぇ〜〜✈」
友美も孝治に同感してくれた。
この一方で、まだ自宅に着いてもいないうちから、静香の心は早くも結婚一色に染まっているようだった。
「ととどん! そんじゃ早速、あたしと進一さぁの結婚式さあげたいんだげんどぉ!」
おまけに面倒な試練など、ととどん――村長がとっくに忘れていてくれたら――の期待もあったよう。だがさすがに村長は、一番肝心な約束を覚えていた。
「いんや✄ まんだまんだおまえたちには試練があると、一年前に言ったはずだぁ☝」
「ちっ☠」
静香がこそっと、小さな舌打ちをやらかしていた。
「それよりきょうとつぐひは、まずは長旅さぁの疲れさ取って、あさって赤城山に登ればええ♥」
「その赤城山に、お宝があるんどすか?」
「誰だんべぇ? この方は……☛」
ここでいきなりしゃしゃり出た美奈子に、村長が困惑の目を向けていた。
それも無理はなかろう。今まで魚町と静香以外、孝治たち一行は、全員がほったらかしのまま。いまだに紹介もされていなかったのだから。
村長がすぐ、娘――静香に尋ねた。
「静香……この方たちは、なんだべぇ?」
「あっ! 忘れでだ!」
静香が慌てた感じで、口元に右手を当てた。
(忘れんやなか♨)
声には出さずに、孝治は突っ込んでやった。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |