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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (5)

 旅の編成は、総勢十名の大部隊。

 

 主役は魚町先輩と静香の、婚約者カップルふたり組(同義語がダブってる⚠)。そのおまけで孝治、友美、涼子の三人が、まあ警護役というべきか。お守り役で付き添う格好になっていた(もちろん涼子の存在は内緒☻)。だけど、この他の面々が、大問題だった。

 

「どないな理由がありはって、お店の給仕してはるおまいさんが、旅について来はるんどすえ♨」

 

「あんたこそなんね♨ もともといっちゃん関係なかっちゅうのは、あんたのほうでしょうが♨」

 

 美奈子と由香が、お互いに角と角を突き合わせ。間に裕志をはさんで同行しているのだ。

 

 自他ともに認める小心者の裕志にとって、これはまさに、地獄の責め苦が続く日々であろう。それでも唯一の救いは、時々由香からせがまれて行なう、魔術よりも得意にしているギターの演奏だけといえた。しかしこれさえも、下心見え見えな美奈子から、たちまち気に入られてしまう結果となった。

 

「おやまあ♡ これはまたえろうかいらしい音色どすなぁ♡ さすがは牧山家の御嫡男{ちゃくなん}様であられますことやおまへんか♡ 音楽の才能かて、また格別でおまんのやわぁ♡」

 

 これに由香が、どうやらカチン。

 

「なんねぇ♨ 見え透いたべんちゃらばっかし言うてからあ♨ 聞いてて耳が腐る思いがするっちゃね♨」

 

 けっきょく新たな対立の火種となる始末。

 

 こんな三人(美奈子、由香、裕志)のうしろからは、弟子の双子姉妹――千秋と千夏が荷物運び役のロバ――トラの手綱を引いていた。

 

 いつも荷物運びでは世話になっているが、千秋たちとは切っても切れない縁で結ばれているロバで、ちなみにメス。

 

 しかもこのトラは、ただのロバではない。なんとロバとユニコーン{一角馬}の混血{ハーフ}であり、額にはしっかりと、小さなネジ巻き状の角が伸びているのだ。

 

 従って、男性は接触禁止。処女でない女性もお断りだという。これにどちらにも当てはまらない孝治は、さわっても乗ってもOK。だがそれについては少々、孝治は複雑な気分がぬぐえない思いでいた。

 

(やっぱおれって……中途半端やねぇ……☁)

 

 これも話の大筋とは関係しないので(別に活躍の機会もないし✄)、省略して物語を進行させよう。

 

 とにかく裕志は、両側から綱引きをされている状態。孝治はそんな裕志にそっと近寄り、からかい気分で声をかけてみた。

 

「モテる男はほんなこつつらいっちゃねぇ★ こりゃ悪魔の二者択一なんかもね☠」

 

「…………☠」

 

 裕志の青い顔には、何本もの縦線が走っていた。これでは胃袋に穴が開く日も近いだろう。今や心境が悪魔の孝治は、さらに駄目押しのつもり。とどめで裕志に言ってやった。

 

「まあ良かったら、おれがこの立場、代わってやってもよかっちゃけどねぇ♥」

 

『それは無理っち思うっちゃね♥ なんちゅうても孝治ん場合、性転換ばしたあとなんやけねぇ★』

 

「うわっち!」

 

 ここで裕志を哀れにでも思ったらしい。涼子が孝治の痛い部分を突いてくれた。孝治は裕志とは真逆に、たちまち顔面真っ赤の思いとなった。

 

「しゃあしぃーーったい!」

 

 いきなり宙に向かって叫んだ孝治の左隣りでは、裕志が目の色を白黒させていた。


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