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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (3)

『孝治♡ 由香ちゃんの準備ができたっちゃよ♡』

 

 孝治と友美のふたりでペチャクチャと話をしている最中に、ドアをすり抜けて涼子が帰ってきた。

 

 涼子は孝治の頼みで、由香の様子を探りに行っていたのだ。

 

 孝治もすぐ、涼子に振り向いた。

 

「お、そうけ☀ で、由香はここに来るんけ?」

 

 孝治の問いに、涼子は満面に含み笑いを浮かべて答えてくれた。

 

『もう、ドアの外まで来とうばい✌ この部屋の外にやね♡』

 

「ほんなこつ?」

 

 涼子の含み笑いに、孝治はなんだか引っ掛かるモノを感じた。それからドアを開いて、廊下に顔を出してみた。

 

「はれ?」

 

 孝治の瞳の前にポツンと、茶色の革製袋が置かれていた。

 

「なんねぇ、これ?」

 

 孝治は右手の人差し指で、袋をチョンチョンと突いてみた。たっぷんたっぷんといった感触なので、中身はどうやら、水が詰まっているらしかった。

 

「……まさかねぇ……でも、見え見えばい☛」

 

 ここまでこれ見よがしであれば、大概な出来事に鈍感を自覚している孝治にも、ピンとくるモノがあった。

 

「由香っ! おまえそん格好で旅に出るつもりなんけ?」

 

 文句を垂れながら、孝治は袋の閉じヒモを解いてみた。すると中から、由香がひょっこりと顔を出した。

 

「あはっ♡ バレちゃったばい☻」

 

 いつものとおり、水から人体へと、瞬時に還元したわけである。ちなみに今の状況をわかりやすく説明すれば、由香が真っ裸で袋に入っている――と思えば良し。その由香が、愛嬌たっぷりの眼差しで、孝治に尋ねた。

 

「……こげなんじゃ……駄目……やろっか? あたし、荷物扱いでもよかなんやけどぉ……☁」

 

 孝治はこれにも苦笑の気分で、頭を横に振った。

 

「いいわけなかやろ! 誰が由香ばかつぐっち思いよっとね☠」

 

「だって、千秋ちゃんが荷物運び用でロバば連れとうやない♐ やけん、それに積んでかろうてくれたらええんやけど✈」

 

 由香は旅の間、自分が水になって運ばれる状態になって、どうやら楽をしようという魂胆らしい。だけどこのようなわがままを、孝治は絶対に認めなかった。

 

「駄目なもんは駄目っちゃけ! 旅に同行する以上は、由香もおれたちといっしょに歩くとやけね✄」

 

「もう、ケチっ!」

 

 由香がちょっぴり、ふくれた様子。そのまま袋の中に、すっと頭を引っ込めた。

 

「ちゃんと服ば着らんといけんのやけね! 運動しやすうて軽い鎧くらいやったら持っとろうも☞」

 

「はぁ〜〜い☹」

 

 それから軽い生返事のあと、袋をくるりと逆転(かなり器用な行ない)。下から足だけを出して(もちろん裸足)、由香がすごすごと、自分の部屋がある女子寮へ退散していった。

 

 さすがに袋から出て帰るわけにはいかないので、このような変な格好となってしまうわけ。

 

 孝治は考えた。

 

「裕志がこん有様ば目撃したら、また鼻血ば噴いてぶっ倒れるんやろうねぇ★」


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