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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (2)

「ええーーっ! 由香もいっしょに行くとぉーー?」

 

 旅支度を整えている最中だった。孝治の洩らしたひと言で、友美が文字どおり、座っていたベッドから飛び上がった。

 

「うん、そうたい☢」

 

 折り畳み式携帯革袋に着替えや寝具(毛布)などを詰め込みながら、孝治は苦笑気分で友美に応えた。

 

 現在ここは、孝治と友美が未来亭で間借りをして住んでいる部屋の中(正確には友美は隣り。涼子は居候{いそうろう})。ふたりは北関東は群馬県への、長旅準備の真っ最中でいた。その旅へ同行する今回の顔ぶれが、友美の驚きの元となったわけ。

 

「ど、どげんして給仕係の由香が、今回初めて冒険について来る気になったと?」

 

「美奈子さんのせいばい☠」

 

 孝治は事の成り行きを、友美におもしろおかしく説明してやった。

 

「本来、今度の旅は魚町先輩と静香ちゃんのふたりだけでよかっちゃのに、赤城山のお宝ば求めて、美奈子さんまで同行するっち言い出したっちゃね☺☻」

 

「美奈子さん、お宝ばバリ大好きっちゃけねぇ✌」

 

 友美も長い付き合いである。すでに美奈子の性癖を知り尽くしていた。

 

「こげん言うたら悪かっちゃけど、美奈子さんらしか理由ばい……でもそれって、由香には関係なかことやなかと?」

 

「ところがそうはいかんっちゃねぇ〜〜☠」

 

 ここで孝治は深いため息。友美の瞳が丸くなった。

 

「どげんして?」

 

 そんな友美に孝治はこれまた、苦笑気分で答えてやった。

 

「美奈子さんが裕志までいっしょに連れてく気なんよねぇ……それも拉致同然なんやけ☠」

 

「なんねぇ、それ?」

 

 友美の瞳がますますもって、真円に近くなってきた。

 

 確かに美奈子が裕志の家柄に目を付けた話は、買い物から帰ってすぐ、孝治から友美に話していた。だからと言って、旅まで無理矢理同行させるのは、無茶な話の展開であろう。

 

「美奈子さん、この旅の間に自分ば徹底的に裕志に売り込むつもりなんやろうねぇ♐ 名門牧山家への玉の輿ば、虎視眈眈{こしたんたん}と狙ろうとんのやけ♐♐」

 

「それで由香が怒って、自分も同行っち言い出したっちゃね☢ なんか今度の旅は、すっごう大変なことになりそうっちゃねぇ☠」

 

「おれもそう思う☁」

 

 友美の言葉で、孝治は苦笑から自嘲の思いとなった。

 

 さらに友美が付け加えた。

 

「それで、もうひとつ疑問があるっちゃけど、訊いてよか?」

 

「どうぞ✌」

 

「由香の理由はだいたいわかったっちゃけど、それ以上に不思議なんが、わたしや孝治の同行理由なんよねぇ……そもそもなんで、わたしたちまでいっしょに行くと?」

 

「そ、それはやねぇ……☁」

 

 孝治は自分の表情が、自嘲から再び苦笑へと、逆戻りした気分になった。

 

あんまり変わりはなしか。

 

それでもボソリ声で、友美に答えてやった。

 

「頼まれたと……☂」

 

「頼まれたっち、誰から?」

 

「魚町先輩から、直々に同行をやね☃」

 

「なんねぇ、それ?」

 

 友美が先ほどのセリフを繰り返した。孝治は構わず説明を続けた。

 

「先輩が、おれと静香だけやったらどげんしたらええかわからんっち言うて、どげんしてもいっしょに来てくれっち頼むっちゃよ☁ 先輩からこげんしてまで言われたんじゃあ、後輩として断れんやろ☂」

 

 本当は今の説明に加えて、『孝治も静香とおんなじ女性になっとんやけ、彼女の気持ちがいろいろわかるやろ☞』などと、過度な期待もされていた。しかしこの理由は、友美にはあまり話したくなかった。

 

「そげん言うたら魚町先輩って、あれほどの体格ばしちょうのに、ノミの心臓みたいなとこがあるっちゃよねぇ〜〜☠」

 

 魚町本人が聞けば傷つくようなセリフを、友美がさらりと言い切ってくれた。孝治はこれにも、苦笑で応えた。

 

「まあ、そげん言うもんやなかばい☁ 魚町先輩かておれにとっちゃあ、恩義のある大事な人なんやけ✌ もっとも身近に反面教師がおるっちゃけ、あれ以外は全部、おれにとっては良か人なんやけどね✍」

 

「反面教師ねぇ……なんだか言い得て妙っちゃね★」

 

 孝治のセリフで友美の脳裏に、どうやらサングラス😎をかけたニヤけ顔でも浮かんだらしい。くすっと可愛らしく微笑んでいた。それから孝治にひと言。

 

「でも、孝治って……♐」

 

「おれがどげんかしたと?」

 

「けっきょくなんやかんや言うたかて、早い話が便利屋なんよねぇ〜〜♠ なんかあったとき、すぐいろいろ呼ばれるんやけね☻」

 

「それば言わんでほしかっちゃよ☁」

 

 おれかて自覚はしちょるんやけ――と、口には出さずに孝治はボヤいた。友美の指摘があまりにも、孝治の的を射抜いているものだから。

 

 まるでダーツの百点満点のように。


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