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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (15)

 けっきょく、骨折り損のくたびれ儲け。おまけにタオルの紛失を、村の宿屋に謝罪しなければならないだろう。

 

 それも癪だが、猿ごときからプライドを、メチャクチャに傷付けられたわけである。とにかくとても歯がゆくてたまらなかった。

 

 だけどすべては、後の祭り。

 

「しょうがなかばい! 帰るっちゃぞ!」

 

 今にして思えば、なしてこいつまで連れてきたんやろっか――と思いつつ、孝治は裕志に瞳を向け直した。ようやく意識を取り戻し、地面に尻を付けている格好の魔術師に。

 

「わわああっ!」

 

 とたんに裕志が、大慌てで目を閉じ、顔を背けた。ついでに両手で、顔面も覆い隠して。

 

「わわわあっ! 孝治っ! ちょっとぉ!」

 

「うわっち! ど、どげんしたと?」

 

「真っ裸でぼくん前に立たんどってえ!」

 

「うわっちぃ!」

 

 事態にようやく気づいた孝治は、これまた大慌て。自分の最も大切な部分を、両手で覆い隠した。

 

 何度も繰り返しているが、孝治も裕志も一糸もまとわぬ、完全全裸状態なのだ。だからとんでもない格好でお互い、斜面の下でたむろしているわけ。

 

 それも男と女で。

 

 湯殿では堂々と見せびらかしていた、自分の裸であった。しかしこのような野外で公開しようとは、さすがに思わなかった。

 

「裕志ぃ! こげん大事んこつ、もっと早よ言うちゃってやぁーーっ!」

 

「そげん言うたかて、孝治が勝手にぼくば引っ張って飛び出したっちゃろうもぉーーっ!」

 

 裸の男女――おっと違った。裸の男と元男が、山奥で責任のなすり合い。こんな(アホな)ふたりにとって幸いだったのは、きょうが比較的暖かい日だった――に尽きるだろう。それと、この場がほとんど人気のない、深山の奥地でもあった――この二点だけ。

 

 さらに孝治と裕志は、しばらくたってから認識した。自分たちが初めて足を踏み入れた山の奥で、最悪な話。現在地――自分たちの居場所を見失っている事実。これに気づくまで、かなりの時間を必要としたのだ。


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