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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (14)

「痛たたたたたたたた☠」

 

 初めにビックリしたほどの急斜面ではなく、けっこう緩やかだった傾斜に加え、柔らかい下草が茂っていたおかげだった。孝治も裕志も、大した傷を負わずに済んだ。

 

 多少手足に血がにじんでいても、これくらいなら戦士にとって、浅いかすり傷程度といえるだろう。

 

 それよりも孝治は、けっきょく子猿たちから逃げられたわけ。こちらのほうが、遥かにくやしい話であった。

 

「ほんなこつグラグラこくっちゃねえ♨ あんエテ公どもがぁ!」

 

 少しだけクラクラする頭をおさえながら、孝治はうつ伏せの姿勢から立ち上がろうとした。気がつけばどうやら、斜面の下に寝転がっている格好をしているようだ。

 

「はれ? 裕志は?」

 

 ついでに周囲を見回せば、なぜか裕志の顔が見えなかった。その代わりなのか、自分の胸の所から、なにやら奇怪な声がした。

 

「……むぐぅ……ぐぅ……☢☠」

 

「はれぇ?」

 

 変に思った孝治は、急いで自分の胸元に瞳を向けた。

 

「うわっちぃーーっ! 裕志ぃーーっ!」

 

 そこにはなんと、孝治の下敷きになっている裕志がいた。しかも孝治と向かい合った、仰向けの体勢。当然孝治の丸出しとなっている胸(おっぱい)に顔面全体を覆い尽くされ、ほとんど窒息状態となっていた。

 

 つまりが孝治のふたつの豊乳で、裕志の顔をはさみ込んでいるのだ。

 

「うわっちぃーーっ! こんラッキースケベ野郎ぉーーっ!」

 

 顔面超赤面化の思いで、孝治は叫んだ。だけど当の裕志は、ほぼ失神に近い有様。孝治は大慌てで、裕志から飛び離れた。さらにこのあと、裕志を介抱――ではない。右足で思いっきり、裕志の頭を蹴っ飛ばしてやった。

 

 すべては一糸もまとわない、生まれたまんま(あっ、正確には孝治は違うか☆)の格好で。


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