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『剣遊記X』

第三章 旅は三角関係と共に。

     (13)

 このような場合、子猿の危機に逆上した親猿たちが、一斉に孝治たちへと襲いかかる危険があった。しかしなぜか親たちは、温泉を堪能するほうを優先していた。

 

 これもひとつの幸いなのだろうが、親猿たちは孝治と子猿の追い駆けっこに、むしろ無関心を決め込んでいる様子。もしかすると、人間ごときにすばしっこい自分たちの子供が捕まるわけがないなどと、完全に高をくくっているのかも。

 

 そのような推測はあとにする。とにかく孝治は子猿を追った。

 

 裕志を握った手を、絶対に離さないままで。

 

 また子猿たちも、実に猿らしかった。素早く木の枝から次の木の枝へと、ピョンピョンと飛び移って逃げていく。だから下から追う孝治は、必然的に上ばかりに注意が向いていた。

 

 結果、次のような結末となった。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

「あひゃあーーっ!」

 

 裕志とふたりして青草でツルリっと足をすべらせ、見事ゴロゴロゴロゴロっと、急斜面を転がり落ちたのだ。


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