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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (8)

「孝治くん、カッコよかぁーーっ☀」

 

「頑張ってねぇーーっ♡」

 

 由香や彩乃たち給仕係一同が、早くも(無責任な)応援をしてくれた。

 

「男装の麗人が、ここでみんなの危機に立ち上がる……これってメモしとかな損ばいねぇ♣♐」

 

 真岐子もこれを、自分の新たな伝承歌の基礎にする気らしい。今の現状を一生懸命、スラスラとメモ用紙に記入していた。孝治はセリフの一部にカチンときたが、今はあえて無視してやった。

 

 それはとにかく(いつもの光景なので)、戦いに向かおうとした孝治は、部屋に魔術師――美奈子の姿が見えないことに気がついた。

 

「うわっち? 美奈子さんは?」

 

 孝治は自分と並んで右側に立つ友美に訊いてみた。友美は口の右端に、ふふんとした笑みを浮かべていた。

 

「美奈子さんやったら、孝治がジタバタしちょううちに、さっさと千秋ちゃんと千夏ちゃんば連れて、先に行ってしもうたっちゃよ☻ なんかわたしら以上に、やる気になっとうみたいっちゃねぇ

 

「そうやったっちゃねぇ☠」

 

 孝治もその点であれば、先ほどから大いに心当たり有り。それはそうとして、孝治の左隣りには、きちんと秋恵がついていた。

 

「うわっち! 秋恵ちゃんは危なかよ! 今から戦争が始まるっちゃけ☠」

 

「ううん、大丈夫!」

 

 半分慌てた孝治に秋恵は、頭を左右に振ってくれた。

 

「あたしやったら平気やけん☀ これであたしも孝治先輩と友美先輩のお役に立てるばいねぇ☆」

 

「やけどねぇ……♋」

 

 孝治はたった今までの半分慌てている気持ちから、今度は頭の中が『申し訳なかぁ〜〜☂』に切り替わった。なぜなら秋恵は律子から預かっている、大事で貴重な新人なのだ。これで騒動に巻き込んでケガでもさせたら、律子からどのように怒られまくるであろうか。

 

 しかし秋恵は、気丈そのもの。

 

「あたし、大活躍してみせるばい!

 

「なんか遊び半分のように見えるっちゃけどぉ……☁」

 

 それでもなおためらう孝治の右耳に、無論初めからいっしょに行動している涼子が、空中(本人は浮遊中)からそっとささやきかけてきた。

 

『こげんなったら、孝治が全責任ば持って、秋恵ちゃんば守ってやらんといけんちゃよ なんちゅうたかて大事な後輩なんやけね

 

 孝治は思わず声に出して、涼子に言葉を返してやった。

 

「わかっちょうっちゃよ!」

 

「先輩? 誰に言うちょうとですけ?」

 

「うわっち!」

 

 これに秋恵は不思議そうな顔を向けてくれたが、もう慣れている友美のほうは、あえて突っ込んだりはしなかった。

 

「秋恵ちゃん、行くっちゃよ✈」

 

「はい!」

 

 今がそれどころではない状況が、友美にもあまりにわかり過ぎているのだから。


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