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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (7)

 ドッカァーーンと、最小限度の破壊力ではあった。だが飛行船の乗降口を簡単に吹っ飛ばすには、充分な爆発でもあった。

 

 それでもガスの詰まった気球部分に影響と被害を与えないよう、連中なりに気を配ったようである。全体に振動は少なく、銀星号は悠々と、今までどおりの飛行を続けていられるのだから。

 

「ほほう、さすがは若戸さん自慢の飛行船だがや」

 

 黒崎の賞賛は、この場ではむしろ、話の本筋違いな印象すらあった。

 

「て、店長ぉ! そげんのんびりしちょう場合やなかですよ!」

 

 日頃の雇用されている側の立場を忘れ、孝治はつい、黒崎に向かって声を荒げた。黒崎がそのような些細なハプニングにまったく動じない性格なのも熟知しているので、ある意味このような無茶も可能なのだ。

 

「こげんなったらほんなこつこんおれが、やつらば成敗してやるっちゃね!」

 

 赤いドレス姿のままで、孝治は戦う決意を、再度固め直した。

 

「成敗っちゅうたかて、きょうは剣ば持っちょらんのばい?」

 

「うわっち!」

 

 友美からここで痛い部分を突かれ、孝治はドレス姿で床にすっ転んだ。だけどまさに、不幸の中の幸運的事態もあった。

 

「うわっち! あ、あれでよかっちゃよ!」

 

 立ち上がりながら、孝治は展望室内側の壁に瞳を向けた。そこにはいつも使っている中型剣と同じ大きさの剣が、部屋のアクセサリーとして飾られていた。

 

 今の今まで気にも懸けていなかったのだが、展望室には若戸氏の自慢らしい、けっこうな数のアクセサリーや調度品が並べられていたのだ。

 

 孝治としては単に、それらに全然興味がなかっただけの話である。

 

「若戸さん! ちょっとこれば借りるっちゃね☆」

 

「そ、それは……飾り用の剣で……♋」

 

 ためらう素振り丸出しである若戸の戯言{たわごと}など、孝治は一切耳に入れなかった。すぐに壁まで小走りで駆け寄り、飾られている剣を、両手でガシッとつかみ取った。


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