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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (6)

「ひゃーーっはっはっはっはっはっ!」

 

 何度も繰り返すが、やつらの声など聞こえるはずもなかった。だけど大方、今のように叫んでいるに違いなかろう。そのような野蛮極まる連中どもが、それぞれ思い思いに爆竹の束を金星号――それも操縦室や船室のある部分に向けて投げつけていた。

 

「きゃあーーっ!」

 

 バンバンバンと連続した破裂音で由香を始め、給仕係レディースの面々が、改めて肝を冷やしたみたい。彼女たちの悲鳴が船内に轟いた。それでもなお、店長の黒崎は、冷静さを貫き続けていた。

 

「う〜ん、あいつら飛行船の最大の弱点ともいえる風船のガスの所を攻撃せんとこを見ると、どうやらこの飛行船自体の奪取を狙ろうとうようだがね☝」

 

「そ、そげんようですね……♋」

 

 黒崎とはやはり対照的で、若戸の顔は、今や青ざめきっていた。おまけに執事の星和が、うしろから釣竿でもって氷入りの氷嚢{ひょうのう}をぶら提げ、若戸の頭に載せている状態。これがなければ頭が発熱して、今にもぶっ倒れるかもしれないせいだろう――たぶん。

 

 その星和執事が言った。

 

「若……まもなく本船は、響灘の真上に出ますばい☛ これはまさに、世にも恐ろしい事態でございます☠」

 

「そうけ……響灘の上空、三十秒ってとこっちゃね↓」

 

 星和のセリフを耳に入れ、孝治は窓から下の光景を眺めてみた。海面が視界いっぱいに広がり、北の方角には広大な水平線が見えていた。これを僥倖と言ってはなんだが、ここならば連中――フライング・コンドルに対抗してこちらが大暴れをしても、地上で迷惑を被る一般人はひとりもいない感じ。

 

「いっちょやっても良かですか?」

 

 だんだんとその気になってきた孝治は、自分の左横に立つ黒崎に、もう一度訊いてみた。戦う現場は空の上だが、友美に魔術で援護をしてもらえば、自由自在の飛行も可能となるからだ。しかし黒崎は、先ほどとは対照的。今度は慎重そうな顔付きになって、頭を横に振ってくれた。

 

「まあ、ちょっと待つがや。一応僕も許可は出したんだし、はやる気持ちもわからんことはないんだが、今はまだ早いがね。もうちょっとチャンスを狙ったほうがええがや。さっき言ったことと、我ながらの矛盾はわかっているんだがね」

 

「チャンス……ですけ?」

 

 言葉の意味がほとんどわからず、孝治は首を左に傾けた。

 

「チャンスっちゅうたかて、そん間に敵は好き勝手に、ボンボン攻撃してきよんやけどねぇ?」

 

「孝治っ! あいつら船に乗り込んで来ようっちゃよ!」

 

「うわっち!」

 

 友美が最初に気がついたのだが、フライング・コンドルの連中はすでに、飛行船下部の乗降口に、次々と取り付いている最中。そこは孝治たちのいる展望室より、遥か後方の位置だった。

 

 まさに背中の翼――ハンググライダーを手慣れた感じで上手に折り畳み、それを背中にかついでいた。そのようにして両手が自由になったところで、彼らはドアの爆破に取り掛かっていたのだ。


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