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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (5)

 高空用でもある厚い強化ガラスなので、やつらの声など聞こえはしなかった。しかしやつら全員、大きな口を開けて笑っている様子から考えても、彼らがなんらかの奇声を上げているであろう状態は、孝治にもよくわかっていた。

 

「まったくなんも聞こえんとやけど、あいつら同士でなんか合図ば送り合いようみたいっちゃねぇ☢」

 

「ほんに、そのとおりのようでおますなぁ☂」

 

 美奈子も孝治に同意してくれた。

 

 問題は、これからだった。

 

「若戸はん、どないされますんや? なんやったらこのうちの魔術で、あのいちびってる(京都弁で『調子に乗ってふざけてる』)お人たちを、さいならさせて見せますよってに☻」

 

 美奈子は口の右端を、このときニヤリとさせていた。見掛けは落ち着いているようだが、先ほどから申しているとおり、思いっきり攻撃しても良い連中の出現で、全身の血が思いっきりに騒いでいるのだろうか。

 

 その点で言えば、実は孝治も内心では同じと言えた。しかし現在、孝治は淑女用の赤いドレス姿でいるのだが、戦闘鎧に着替える暇はなさそうだ。そこでまずは、黒崎の認可が先だった。

 

「で、店長、あいつらおれたちでやってもよかですか? 空の上っちゃけど、友美に魔術で援護してもらいますけ☻☞」

 

「う〜ん、そうだなぁ」

 

 黒崎は右手を下アゴに当てていた。彼なりになにか、模索でもしているようでもあった。それから孝治と美奈子と、それに若戸にも向けて、ひと言。

 

「まあ、ええがや。若戸さん、銀星号の安全は、我が未来亭に任せてもらいますがね」


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