『剣遊記13』 第四章 響灘上空三十秒! (3) そのモヒカンゴーグル野郎と、孝治は自分の目線が重なったように感じた。
「うわっち!」
次の瞬間、モヒカン野郎の口の端が、ニヤリとしたようにも見えた。いくら急接近中とはいえ、けっこう遠い距離にある人の表情がわかるなど、常識で考えれば有り得ない話。しかし孝治には、確かにそう見えたのだ。
「あいつ、こっちば見て笑ったばい!」
「えっ?」
『まさかぁ?』
友美と涼子が、そろって孝治に顔を向けたときだった。ガラスの外のモヒカン野郎が、握っているハンググライダーの支柱から、右手だけをパッと離したのだ。無論左手でしっかりと操作を続けていたが、彼の右手には、極めて物騒な物が備わっていた。
「うわっち! あいつ爆竹ば持っとうっちゃよ!」
孝治の気づきは、少し遅かった。モヒカンが飛行船の展望室に向け、その青い竹製であるらしい爆竹を投げつけてきた。
「うわっち! 危なかぁーーっ!」
「うわぁーーっ!」
孝治の叫びで若戸を始め全員が、窓ガラスの前から慌てて飛び離れた。とたんにガラスの外側でバババッと、まばゆい火花が飛び散った。
これが夜間であれば、それなりに綺麗な花火の祭典であったろう。しかし昼間の真っ盛りの時間では、激しい音で相手を驚かせる、言わば『嫌がらせ』の類としか言えないシロモノである。またこれで、傷ひとつ負っていない強化ガラスの実力が、なんだか実証されたかたちでもあった。それでもいきなり攻撃されたことに違いはなし。
「あんにゃろーーっ♨!」
孝治は腹の底から憤慨して、歯をガチガチと打ち鳴らした。
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