前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (2)

「ほんま、まるで本モンの鳥はんのようでんなぁ✍」

 

 横から急に、美奈子も顔を出した。

 

「うわっち!」

 

 孝治はビックリの思いで声に振り返った。よく見れば友美を始め、この飛行船にいる未来亭のメンバー全員が、展望ガラス前に集まっていた。

 

 いったいいつの間に、展望室に集結していたのやら。確かメンバー全員、別室でのパーティー二次会としゃれ込んでいたはずなのだが。

 

「凄いにゃあ♋ こげにゃ空の上まで、悪モンがいっぱいいるもんにゃんだにゃあ♨」

 

 二次会の件は、もはや高い棚の上。朋子が両手の爪を立てて、ガラスに手の平を密着させていた。

 

「ほやけんあたしたち……これからどうなるんぞなぁ♋」

 

 桂も不安顔で、窓の外の光景に見入っていた。

 

「若戸さん……そのフライング・コンドルっての、もっとくわしゅう教えてくれませんか?」

 

 ここで友美が、やはり外の光景に瞳を奪われたまま、自分の右横に立つ若戸に尋ねた。孝治の聞きそびれていた、『フライング・コンドル』についての説明を。

 

「おれもそげな連中、初めて聞くっちゃね✎ 改めて訊くとやけど、あいつらほんなこつなんね?」

 

 孝治もいっしょに、再質問の思いで尋ね直した。

 

「は、はぁ……僕がわかっている限りでよろしければ……あいつらは……♋」

 

 若戸がツバをゴクリと飲む音を立てつつ、孝治と友美の問いに答えてくれた。

 

「前に衛兵隊で聞いたことがあったとですけど、最近西日本一帯の空に現われた、空の海賊みたいなもんらしいですっちゃよ デビューが最新なものだから、日本全国的に、まだ知名度は低いらしいんですけどねぇ

 

「まあ、うちらも知らはりまへんどしたが、それでもドえらい厄介なもんには、間違いあらしまへんなぁ♐」

 

 若戸とは逆で、いっしょに話を聞いていた美奈子はなぜか、瞳に余裕の色を浮かべていた。

 

(美奈子さん……大暴れのネタができたもんやけ、ほんまは内心うれしいのとちゃうやろっか?)

 

 彼女の性格をだいたい把握しつつある孝治は、声には出さないようにしてつぶやいた。実際、今の今まで好きでもなさそうな、見合いの緊張を強いられてきた美奈子である。悪党の急な出現は彼女にとって、ちょうど良いストレスの解消になるっちゃろうねぇ――と、孝治は他人事気分のようにも考えた。

 

「あっ! ひとりこっちに来ますばい!」

 

 今度は秋恵が、右手の人差し指で連中を指差した。

 

「うわっち! ほんなこつ!」

 

 孝治も瞳を向けた。空いっぱいに広がるゴマ粒の中から一羽――もといひとりが三角形の翼を翻{ひるがえ}し、まっすぐ銀星号へと突入してきたのだ。

 

 美奈子もそいつを右手で指差した。

 

「どうやらあれが、敵の親方のようでおますなぁ♐」

 

「なるほどぉ、まずは親分からのお出ましっちゅうことですな☢」

 

「あれがねぇ……☁」

 

 若戸といっしょに、孝治も空を飛んで接近してくる男の顔を見た。そいつは頭を金髪のモヒカン刈りにした、ひと目で西洋かぶれとわかるようなニーちゃんだった。また顔面には風除け用と思われる、ゴーグルを装着していた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system