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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (27)

「まったく、孝治や美奈子君たちの活躍ぶりは、我が身内ながら見事ハラハラドキドキもんだがね」

 

 銀星号の展望室にて戦況を眺めながら、黒崎氏本人は、まるで他人事のような口振りだった。

 

「し、しかしぃ……そろそろ衛兵隊に連絡ばしたほうが、よかやないですかぁ?」

 

 反対に銀星号の船主である若戸氏は、先ほどからである青ざめた顔色を、さらに濃い感じで青ざめさせていた。

 

「恐らくぅ……いやきっと、美奈子さんはあのフライング・コンドルの連中に勝つ……とは思うとですがぁ……万が一にでも彼女にケガなどさせたら、この僕はきっと悔やんでも悔やみきれましぇんけぇ……☁」

 

「その気遣いは御無用……と言うのはやめておきますがね。確かにケガでもしたら元も子もにゃーですからなぁ。それでは勝美君、ちょっとええがやか。それと彩乃君もだがや」

 

「はい、店長♡」

 

「なんですばってん?」

 

 黒崎は不安感をもろ顔出ししている若戸に対し、ふっと口の端に笑みを浮かべるだけ。それから秘書の勝美と、給仕係の彩乃を自分のそばに呼んだ。

 

「ふたりですぐに、衛兵隊に連絡に行ってほしいがや。今なら連中は、孝治と美奈子君に気を取られているから、敵に悟られないようにするには好都合だがね」

 

「はい、喜んで♡」

 

「なんねぇ、わたしってまた使いっぱしりなんやねぇ☹」

 

 やる気満々の勝美とは違って、彩乃のほうは、もろブー垂れ顔になっていた。それでも任務は任務である。

 

「では店長、行ってきまぁーーっす♡」

 

「はいはい、頑張ってきますけね☻」

 

 ふたり(勝美と彩乃)はそろって、コンドルの連中が壊した出入り口から、パッと外(響灘上空およそ五百メートル)に飛び出した。勝美は背中の半透明アゲハチョウ型の羽根を羽ばたかせて。彩乃はその身をシュワッと、大型のコウモリに変化させた。

 

「なるほどぉ……今この船に乗っている者の中で空を飛べるのは、あのふたりだけ、っちゅうことですな✈ こりゃまた一本やられた思いですわ✌」

 

 空から地上に向かうふたりの姿は、早くも視界より消えていた(なにしろピクシーとコウモリであるから)。その海と空だけになった光景を眺め続けながら、若戸が感慨深げにささやいた。顔の青さは、いまだに治っていない状況であるが。


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