『剣遊記13』 第四章 響灘上空三十秒! (26) 「うわっち! ヤバかぁ!」
孝治は思わず悲鳴を上げた。ほとんど無抵抗に近いはずの変身中である秋恵が集中して攻撃されたら、彼女の身の危険はもちろんのこと、自分たちも遥か眼下への海上落下となるからだ。
「友美ぃーーっ! あいつらば吹っ飛ばしてやぁーーっ!」
「わかっちょうって! はあっ!」
「あひぇーーっ!」
友美の衝撃波魔術が、飛んでくる三人のうちのひとりを撃墜した。だが残りのふたりは怖いもの知らずだった。味方の墜落など、気にも留めない感じ。まっすぐ小型飛行船の船尾に、短刀を突きかざした。
「うわっちぃーーっ! 落ちるっちゃあーーっ!」
孝治の大悲鳴と、このときこれまた同時だった。
「うわっち?」
「あぎゃあーーっ!」
「うへぇーーっ!」
なんと小型飛行船の尾鰭型である船尾がバシッと左右に激しく動いて、ふたりの襲撃者を、いとも簡単に払い落としてくれたのだ。
「秋恵ちゃん! なかなかやるっちゃねぇ☆」
友美が大喜びの声を上げた。孝治も初めは、夢のような気分でいた。
「人の意思があるっちゃろうけどぉ……飛行船のしっぽで敵ば叩き落とすなんち……こげんことがあってよかっちゃろうか?」
このような現場の中、涼子と千夏のふたりが、思いっきりに喜びはしゃぎまくっていた。
『凄かぁーーっ☆ 秋恵ちゃんって最強ばぁーーい☀』
「この風船さん、千夏ちゃんたち助けてくれましたですうぅぅぅ♡♡♡」
もちろん千夏は、たぶん涼子の存在を、いまだ知らない――はず。またここでもついで、ヨーゼフが三つの頭で「きゃんきゃんきゃん!」と吠え、喜びを表現してしっぽを左右に振っていた。
言うまでもなく、しっぽはひとつである。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |