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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (20)

 美奈子は左右両方に千秋、千夏の双子姉妹を付き従えさせ、浮遊の術で高空を飛行していた。

 

 追い駆ける相手は、現在空中を逃走中。ハンググライダーの翼を広げた、フライング・コンドルの一味――桐米良一党だった。

 

 しかし戦況は、美奈子組一隊に対し、フライング側はまだ余裕の戦力を残していた。敵は次から次へと数を強みにして、美奈子に急降下の爆竹攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 しかもこれが、本当にひっきりなし。まるで息をする暇さえ与えてくれなかった。

 

「少々あかんことになりましたなぁ☠ 簡単にひとひねりや思うたんどすが、敵の数が予想以上でおましたわ☢」

 

 ここで美奈子は、初めての愚痴をつぶやいた。左右両方に双子を従え、おまけに魔術の駆使では、自信満々の美奈子であった。本来ならばこのような場合、ふたつの異なる魔術を、同時には使えない。その常識を見事にくつがえし、飛行しながらの衝撃波魔術で、すでに相手を十人ほど、響灘の海上に墜落させていた。

 

 しかも、このあとのケアも上出来。落とした相手にまた無重力魔術をかけ、非武装状態で空中を漂わせてもいた。

 

 これらすべてを御都合主義と笑うなかれ。美奈子は常識外れの魔術師――同時にこれでも、けっこう慈悲深い性格なのだ(?)。

 

 だからこそ簡単にケリが着くものと考え、千秋と千夏も協力で同伴させたのだが、やはりここは、読みが甘かった――というべきか。

 

「師匠、こうなったら千秋らで、敵さんら攪乱攻撃してくるで☟」

 

 美奈子の左側を飛んでいる姉の千秋がすまなそうな口調になり、師匠を見上げて言った。

 

 さすがに双子姉妹のほうは、二種の魔術の同時駆使ができなかったのだ。従って今の場合、攻撃魔術なしの敵の翻弄手段に、その身をついやしていた。

 

「そのようでんなぁ……☹」

 

 美奈子もコクリとうなずいた。今になって顧みれば、姉妹を空中まで同行させた理由が、自分自身でも不明と言えた。恐らく初めの段階で、余裕しゃくしゃくに自分――師匠の勇姿を、千秋と千夏に見せびらかしたかった――だけかもしれない。

 

(我ながら、自己顕示欲もほどほど、っちゅうことでんなぁ☹)

 

「美奈子さぁーーん! 助っ人に来たっちゃよぉーーっ!」

 

 そこへ反省中の美奈子に、やはりの御都合主義。それほど遠くなさそうな距離から、聞き慣れている孝治の声が轟いた。

 

「な、なんどすか?」

 

 美奈子は驚いた顔になって、空中にて左右をキョロキョロと見回した(空中を自在に飛び回り過ぎたので、東西南北が一時的だけどわからない状態)。

 

「師匠! あれ見てみいや!」

 

 すぐに千秋が、右手の方角を指差した。

 

「おやまあ♋」

 

 美奈子の瞳と口がOの字となった。さらに毎度ながらで、千夏が思いっきりにはしゃぎまくった。

 

「うっわぁーーい♡ ピンク色の風船さんですうぅぅぅ☀☆

 

 わんわんわん!

 

 千夏に抱かれているヨーゼフも、高い鳴き声を上げた。


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