『剣遊記13』 第四章 響灘上空三十秒! (15) 「うわっち!」
「えっ! どげんこと?」
『なんか、おもしろそう☆☆』
孝治と友美が、そろって驚きの声を上げた。ついでに涼子は、思いっきりのワクワク顔。
「秋恵ちゃんがおれたちば連れてくって……いったいどげんすっとね?」
なにがなんだかわからない思いの孝治は、脇目も振らず当の秋恵に尋ねてみた。
この孝治の問いに新人盗賊の彼女は、なんだか『どや顔☻』みたいな表情になって答えてくれた。
「ついにあたしん力ば、皆さんのために披露するときが来たとですよ♐ あたし、絶対皆さんの役に立たせてもらいますばい♡♥」
「なるほどぉ……孝治も友美君も律子君から聞いとると思うが、秋恵君はホムンクルスだがや」
そこへまた黒崎が出てきたものだから、孝治はますます話がわからなくなってきた。
「そ、それは知っちょりますけどぉ……ホムンクルスと今の秋恵ちゃんの自信満々発言と、どこでいったい噛み合うとですかねぇ?」
孝治はもろ一信九疑の思いなのだが、それは黒崎の左横にいる、若戸も同じ気持ちのようだった。彼もバタバタと、黒崎について来たようなのだが。
「黒崎さん……彼女はいったい、なんばやらかすつもりなんですけ?」
すると秋恵が、今度は若戸に顔を向けた。
「若戸さん! こん飛行船ば浮かせとうガスの予備はありますけ?」
「よ、予備ですけ……?」
若戸も思いっきりの困惑顔となって、自分のうしろに控える執事の星和に振り返った。
「はい、確かに予備のヘリウムガスの在庫はございます⛽ 危険物の大量備蓄ができんとですから、あまり多くは積んどらんとですが、少々気持ち程度の補助用でございますばい⚠」
若戸が訊く前に、執事はきちんと答えてくれた。
「そう、そうけ……☁」
執事の返事を得て、若戸が再び秋恵に顔を向けた。
「予備ガスでしたら大丈夫ですから……とにかく緊急に、ここに取り寄せますけどぉ……☁」
「はい、だんだんおーきん! それから人が乗ったかてかんまんみたいな、ごつか籠{かご}みたいなモンとごつかロープもありますけ?」
秋恵が若戸に元気いっぱいの返事を戻した。それと同時に、新たな要求も行なった。
「は、はい……籠はようわからんとですが、代わりにプラスチック製の軽いユニットバスみたいなもんでええですか?」
「はい、なんでんよかです♡」
若戸の顔にはもはや、困惑以外のいかなる色も見当たらなかった。それはとにかくとして、これらはすぐに、秋恵の要望(?)どおりとなった。まずは壊されている出入り口の所まで、ヘリウムガスの詰まっているガスボンベが、銀星号従業員たちの手で運ばれた。
生クリームでツルツルとすべる通路を、台車に載せてゆっくり慎重に歩みながらで。
その数五本。確かにこれでは、飛行船全体の補助と言うには、まったく届かない数量と言えるかも。
このあと孝治は、思わず苦虫(三匹分)を噛む気になった。なぜなら入浴のとき、大騒がせをやらかした軽いプラスチック製のユニットバスが、どこかの個室から取り外されて、出入り口前までバタバタと持ち込まれてきたからだ。
そのバスは孝治の使ったときの物より、かなり大きめの感じ。強いて言えば、人が最低でも四人か五人くらいは入れそうな気がした。
「いったいこれから、なんが始まるっちゃろっかぁ?」
孝治にもまったく予想ができない、話の急展開模様であった。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |