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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (14)

 孝治の少々である反省の間に、ボスの桐米良は飛行船の外へ飛び出していた。

 

 もちろんハンググライダーの翼を広げ、再び大空への滑空を始めたわけなのだ。

 

「うわっち! 逃げられたっちゃあーーっ!」

 

 こればかりは自分の失態。孝治は大声で絶叫した。

 

 しかし今から追い駆けようにも、敵は遥か空の彼方。なにもない孝治に、手も足も出せるはずがなかった。

 

「こげなとき、バードマン{有翼人}の静香ちゃんがおったらねぇ☄」

 

 無い物ねだりを承知で、孝治はつぶやいた。そのついで、周りの面々を見回してみた。彩乃とパッチリ視線が合った。

 

「わ、わたしはちゃーらんばい! コウモリが人ば運べるわけなかろうも!」

 

 孝治の意を鋭く察知したらしい。ヴァンパイア{吸血鬼}の彩乃が、慌てて両手を広げて『参った』(?)の姿勢を取り、頭もブルブルと横に振りまくった。

 

「わかっちょうって!」

 

 実は本心は彩乃が言ったとおりなのだが、常識的に考えても、コウモリに人の運搬は無理であろう。よほど大型のロック鳥{超大型鷲}でも、呼んでこない限りは。

 

 そんな孝治の横を素通り。美奈子が千秋と千夏にささやいていた。

 

「ほな、高見の見物は、これまでどすな⛑ うちらはやつらを追い駆けまっせ✈」

 

「はいな、師匠!」

 

「千夏ちゃんも行ってきますですうぅぅぅ☀」

 

 とたんにふわりと、三人(美奈子、千秋、千夏)の体が宙に浮いた。これは孝治の耳には入っていなかった事態であった。

 

「うわっち! 千秋ちゃんたちまでいつん間に、魔術ば覚えてしまいよったんねぇ!」

 

「そりゃ、師匠である美奈子さんにずっとお伴ばしよったんやけ、もう『浮遊』の術くらい、習っとってもええっち思うっちゃよ✍」

 

 肝を潰した孝治の左横で、友美が感心気味な顔をしていた。

 

 美奈子たち三人は、そんな孝治など我関せず。桐米良が退場した飛行船の壊れた出入り口から、フワフワと大空へ飛び出した。

 

 空中で彼らを追い、そこで追い討ちを仕掛けるつもりらしいのだ。千秋と千夏も、それに参戦――と言ったところか。千夏など、空に浮かんでもヨーゼフを抱いたまんまで。

 

 しかし空中浮遊の力を得ているとは言え、見た目に幼い双子姉妹が、いったいどのようにして活躍をするのか。そこまでは孝治も実際に見ないとわからない。だがふたりの弟子を信頼している美奈子である。きっとなにか、作戦を考えているに違いない。だがそうなると、完全置いてきぼりの孝治には、まるで立場がなかった。

 

「腹立つぅーーっ! おれもいっしょ連れてかんねぇーーっ!」

 

 これで自分の仕事が終わりなど、孝治は完全に納得できなかった。

 

「わたしが浮遊の術ばかけてやろうか?」

 

「あっと! おれには友美がおったっちゃね☆」

 

 友美がそんな孝治のうしろから、フォローの声をかけてくれた。そもそも孝治とて、空中戦に友美の魔術の援護をもらう気でいたのだ。だけど、そのときだった。続いて秋恵が発言してくれた。

 

「あたしが皆さんば、空に連れて行きますばい✈」


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