『剣遊記13』 第四章 響灘上空三十秒! (13) これらケーキが飛び交う戦場(?)を瞳に入れている美奈子は、もはや苦笑丸出し気味の顔。
「なんや、これならもう、うちらの出番なんかあらしまへんなぁ☻ あとは高見の見物でもさせてもらいましょうかいな☞☜」
しかし孝治は気が済まなかった。
「よかよかぁ! こげんなったらおれが空中大決戦っちゃあ! ひとりふたりは面倒やけ、悪党どもば束になってかかってこんねぇ!」
飾り物の中型剣をブルンブルンと振りまくり、孝治は頭の上にショートケーキを載せている桐米良に向かって飛びかかった。
「えーーい! こっちも面倒くせえ! 女子んくせに立ち回りばっかエラそうにしとんやないでぇ!」
この時点において桐米良は、孝治の正体(元男)を知らないようだ。
まあ当たり前か。
孝治だって、自分の真実を教える気など、さらさらないわけだし。
「ボスっ! 早くさっきの出口から引き揚げやしょうで!」
顔面真っ白(たぶんメリケン粉をかぶった)の子分Eが桐米良の右手をつかみ、素早くボスを引っ張ろうとした。そいつに向かって、孝治は真正面から飛びかかった。
「親分ば逃がすんやなかぁーーっ!」
「ぐえっ!」
孝治の握る飾り物の剣が、子分Eの脳天をバコンと直撃! しかし飾り物の剣は、本当に飾り物の剣であった。敵は頭から真っぷたつ――になるはずもなく、子分Eの頭に大きなタンコブをこしらえてやっただけで済んだのだ。
「ぶぎゅぅ……☁」
それでも子分Eは、あえなく失神した。
「うわっち! でたんやり過ぎちゃったばいねぇ☢」
さすがの孝治も、自分の興奮が度を越していることを認識した。きょうは朝からあれやこれやとおもちゃにされている一日なので、自分自身、頭に血が昇り過ぎているのであろうか。
とにかく一歩間違えれば、疑いなく刃傷沙汰となる話。
「ちょっと気ぃつけよっと☠」
孝治は飾りとはいえ剣を持つ自分に、自戒の気持ちを込め直すようにした。
その背中に、黒崎が言ってくれた。
「これだから、僕も慎重姿勢になったんだがや。うちの連中は暴れ始めたら、僕にも手に負えんがね。もちろん孝治もだがや」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |