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『剣遊記13』

第四章 響灘上空三十秒!

     (12)

 孝治と桐米良の不毛なやり取りには、さすがの美奈子も呆れている様子でいた。

 

「こらあきまへんなぁ……これやったらうちかてどんくそうて、魔術もあほらしゅうて使えまへんわぁ……☁」

 

 そこへ急に轟く、野郎どもの叫び声。

 

「ボスっ! どてらいことになってまんのやでぇ!」

 

「どないしたんや、いったい!?」

 

 ボスの桐米良が、速攻で声に振り向いた。なんとそこでは、フライング・コンドルの面々が、未来亭給仕係たちからの総攻撃を受けていた。

 

「この、この、このぉ!」

 

 由香がフライパンで子分のひとり(B)をパンパン滅多打ちなど、まだ序の口の範囲内だった。

 

「ふにゃあーーっ!」

 

「ぎゃあああああああああっ!」

 

 由香の隣りでは、朋子が三毛猫に変身。伸ばした爪で子分Cの顔面を、ヒッチャカメッチャカに引っ掻き回していた。

 

 その他にも真岐子が超長い蛇体で、子分Dをグルグル巻き――しながらやはり、メモにせっせと状況と自分の夢を記入中。

 

「え〜〜っと、勇者はここで、悪漢どもの首ば絞めて気絶させ、命まで取らんのやけ降伏したらどげんやと、勝利ばつかむってとこやろっかねぇ☆ おっと、戦いのリングは鋼{はがね}の戦場と荒野になって、悪漢どもば容赦なくボコボコ放題の坩堝{るつぼ}と化すとやろっかぁーーっ! あ〜ん、我ながら言いようことがわからんけねぇ〜〜☠」

 

 一方これらを背景にして、登志子は戦いに加わっていなかった。それよりも手に持っているキャンディーを、ペロペロと舐めてばかりでいた。

 

「食ってばっかおらんで、登志子はなんもせんでええとね?」

 

 孝治のツッコミも、彼女にはてんで効き目なし。

 

「そげん言うたかてわたしって、平和主義者なんやもぉ〜〜ん♡」

 

「…………」

 

 孝治、絶句。

 

 とかなんとかしているうちに、今度は銀星号のメイドさんたち(三人)が、キッチンカートになぜか大量の白いケーキを積んで運んできた。

 

 あげくが次のセリフ。

 

「未来亭の皆さぁーーん! 合戦用のケーキば持ってきましたけぇ、これで存分に戦ってくださぁーーい!」

 

「あっと、こりゃよかねぇ☆」

 

「ありがたかぁ〜〜♡」

 

 早速ケーキに、由香や彩乃たちが群がった。

 

「それぇーーっ!」

 

「ぎゃぼっ!」

 

 由香の投げたケーキが、コンドルのひとりの顔面真正面に命中! そいつは顔の周りにベッタリ付いたケーキを、舌を出してペロペロと舐め回した。

 

「うめえっ☆」

 

 一般にケーキ合戦用のケーキは砂糖などの味付けが無くて、食べても不味いシロモノだと言われている。しかし今回銀星号に、そのような投げつけ用のケーキがあるはずはない。そこでふつうのデザートのケーキを、緊急で持ってきたのだろう。これでは敵に与えるダメージが少ないだろうが、とにかく攪乱の役には立つようだ。

 

「えい! えい! えい!」

 

「きゃはっ☆ おもしろかぁーーっ♡☀」

 

 とにかく桂や真岐子たちまでが参戦。銀星号の船内は、あっと言う間に甘いケーキの香りで充満状態。白くて平和的な銃弾が飛びまくった。

 

「あひゃあーーっ! やめやめぇーーっ!」

 

 コンドルの面々が、泡ならぬ生クリームを食いながらで逃げまどう中だった。砂糖やシナモンの匂いが、船内の宙を駆け巡った。


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