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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (8)

 おまけにサラマンダーが、川岸でなにやらためらっている様子。そのためますます、荒生田の調子乗りの傾向に、大きな拍車がかかったりして。

 

「先輩……あんましあいつば刺激せんほうがよか……っち思いますっちゃよ♋」

 

 裕志がそんな荒生田に向け、たぶん無理だろうとは思いながらも忠告。だけどここでも、サングラス😎野郎は大いに吠え続けるのみでいた。

 

「もうビビることなんかなかっちゃけ! あいつは火の塊なんやけ、水に落ちたら自分が消えちまうことば、いっちゃんよう知っとんやけねぇ✌」

 

 そのようにキッパリと断言。それから川岸にいるサラマンダーに向かって、さらに思いっきりの罵詈雑言を投げつける始末。

 

「こん火トカゲ野郎! 腹かくようやったらここまで来てみろっちゃあ☻ もっともおまえさんのそん体やったら、水に入ったとたんにジュッと消えちまうっちゃけどねぇ☠」

 

「先輩……あいつ、怒ってません?」

 

「アホらしか☻☻」

 

 荒生田のあまりの傍若無人ぶりで、後輩のほうが心配症に囚われ気味。そんな裕志を、荒生田は鼻で笑ってやった。それからいつまでも川の真上に浮かんでいる場合ではないので、荒生田はとりあえず、事態の打開法を裕志にうながした。

 

「よか、よか☆ あいつの単細胞頭でオレの言いようこつ、わかるはずなかっちゃろうも✌ それよかおまえはビビッとらんで、本気であいつばしばく方法ば考えろっちゅうの✐」

 

 その回答が出るよりも早くだった。

 

「先輩っ! あれば見てん!」

 

 裕志が慌てた感じで、川岸の方向を右手で指差した。

 

「なんねぇ?」

 

 つられて荒生田も、サングラスの奥にある三白眼を向けた。

 

「お……おい……☠」

 

 そのサングラス野郎のなめらかだった口調が、急に上擦った感じへと変化した。

 

「さ、サラマンダーっち……飛べるんけ?」

 

「あれは飛びよんのやのうて……☠」

 

 裕志の口調もとっくの昔、見事に上擦りきっていた。

 

「……あいつはもともと体全部が火なんですから、あいつも空中に浮かぶことができるとですよぉ! たぶん……☠」

 

「たぶんやなかぁ! やったらとっとと、オレたちも逃げるっちゃあ!」

 

 川岸から空中へと身を浮かべ、さらに荒生田たちを追おうと迫る、火の怪物サラマンダー! そんな空陸万能な相手だったとは露知らず、大慌てで荒生田が裕志の尻を右足で蹴った。

 

 空中にて器用にも。

 

 それから再び、この場(宙)からの激烈な逃走を開始! 空中を裕志の術で、すべるようにして。

 

「ほんなこつしつこか怪物っちゃねぇ! あげな陰険な性格ばしちょったら、誰からも愛されんけねぇーーっ!」

 

 などと訳のわからない絶叫も、荒生田が繰り広げながらにして。


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