『剣遊記12』 第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。 (5) 「サ、サラマンダー!」
裕志が先ほど以上に、大きな驚きの声(しかも裏返っている)を張り上げた。
「サラマンダーっち、あの火の塊がそうけぇ?」
無論荒生田とて、その名は知っていた。そんなふたりの眼前に今、直径が大人でひとかかえはありそうな、真っ赤な火球が宙に生じているのだ。
「確か、火ば操る魔獣っとか言うて、でたんデカかトカゲみてえな格好ばしちょう怪物やったっちゃねぇ✍ ほんなこつ嫌な野郎が出たもんやねぇ☠」
「そのとおり!✌」
サングラス戦士の舌打ち混じりである後輩への問い掛けに、代わって当の召喚者東天が、自信満々余裕の態度で応じてくれた。
「吾輩がサラマンダーを呼び出した以上、もう諸君らに生き延びる術はない! せいぜいが真っ黒コゲにでもなって、哀れな骸{むくろ}を晒すがよいわぁ! ぐはははははははっ☀☆☀☆」
そんな高笑いを、東天が手下であるヤクザどもといっしょになって交えている中だった。なにもない河原の草むらの真上にある炎の塊がだんだんと、四本足の動物の形状に変化した。しかもそれは、牛ほどの大きさへと、膨張を続けているではないか。
「せ、先輩が言うたとおりですっちゃよぉ! やっぱし火の大トカゲですっちゃあ! それも体中が鱗やのうて、火に覆われちょう……☠」
まさに怯える裕志が、キッパリと表現するような怪物の出現!
その裕志の後頭部を、荒生田がハリセンで、バチンと怒突いた。どこからハリセンが出たかなど、考える必要はなし。
「こんションベン垂れぇ! 見たまんまばそんまんまで解説してんやなかぁ!」
こうして、炎に照らされている真っ青な顔の荒生田と裕志の前で、召喚されたサラマンダーが、大きな雄叫びをブオオオオオオオオオッッと張り上げた。しかもその全身から絶えず炎を噴出させているので、怪物が四本足で移動するだけで、周辺の草むらがたちまちパチパチと、音を立てて燃え上がった。
「ヤバかっ! ここは三十六計逃げるにしかずっちゃあ!」
「はいっ! 先輩っ!」
逃げ足にかけたら、このサングラス戦士と小心魔術師は、それなりに優秀な俊足の持ち主であった。とにかくこげな怪物ば相手にできんばい――とばかり、慌ててサラマンダーに背を向け、ふたり並んで河畔から一気に逃走した。
そんなカッコ悪い荒生田と裕志の有様を見て、東天とその一行が、やはりギャハハと高笑いを続行させた。
「これでよい☻ あとは吾輩のサラマンダーが始末をしてくれるし、たとえ逃げられたとしても、やつらは二度とこの久留米には戻りまいて☠ どちらにしても、厄介な連中が片付いたというわけだ✌✌」
「へい、そんとおりばい✌」
利不具も荒生田たちが逃げる様を見て笑っていた。それからお終いでひと言。
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