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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (4)

「お、おのれぇ〜〜♨♨」

 

 最後はとうとう、東天の眉間に、血管がはっきりと浮かび上がる結果となった。

 

「黙って言わせておけば、吾輩に対する悪口雑言の数々、これは断じて許しがたぁーーいっ!」

 

「てめえは別に許さんでもよかっちゃけね☻ オレはいっちょん平気なんやけ☺」

 

「だ、黙れぇーーっ! この吾輩が顧問魔術師だけじゃなく、もうひとつの顔があることを教えてくれるわぁーーっ!」

 

「そげん言うとやったら、教えてもらいたいもんやねぇ☻ 授業料と講義代は払わんけどやね✌」

 

 この期に及んで、なおも逆挑発を繰り返す荒生田。それから東天が、怒りの感情をどうやら無理矢理的に抑えながらで、口でなにやらモゴモゴと、小声で呪文をつぶやき始めた。

 

「こ、これは『召喚』の魔術ですっちゃよぉ!」

 

 さすがに魔術が専門なだけあって、裕志はすぐに気がついた。敵(東天)が今から行なおうとしている魔術について。これに荒生田が、それなりに核心に触れた問いを、裕志に訊いた。

 

「『しょうかん』っち? で、奴{やっこ}さん、なん呼び出すつもりけ?」

 

 裕志は頭を横に振った。

 

「わ、わかりましぇん……ぼくもそのぉ……『召喚』の術ば、ようと習っとらんもんですけ✄」

 

「ぬっせぇーやっちゃのぉ♨」

 

「痛っ!」

 

 肝心な場面になると頼りにならないので、いつものとおり。荒生田が裕志の頭のてっぺんに、大きな拳骨をポカリとお見舞いした。そんなふたりが、漫才をしている間だった。東天の召喚魔術が完了していた。

 

「出でよ! サラマンダー{火精獣}!」

 

 自称魔術師の雄叫びが、筑後川の河畔全域に、大きく響き渡ったのである。


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