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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (3)

 それはそうとして、この陣原家顧問の魔術師は、またも自分を取り戻したような顔になった。

 

「あっ、そうだった✈」

 

 さらに咳払いの繰り返し。

 

「ご、ごほん!」

 

 ワンパターンである。

 

「と、とにかくだ……☁」

 

 とりあえず、本題に戻るようだ。

 

「き、君たちがなんの理由があって、当陣原家に来たかは、この吾輩の預かり知らぬところである✄ しかし、この家に吾輩がいる以上、なんの問題が起こり得ることはない✄ よって、もう仕事とやらを終了させて、地元にお帰りになってはいかがかな?」

 

「なん言いよんね! しばき倒しちゃろうかぁ!」

 

「そ、それは、陣原家の意向なんですか?」

 

 単にムカつくだけの荒生田。それなりに冷静な態度の裕志。対応の仕方はそれぞれであった。ここで東天は、サングラスのほうを無視。若い魔術師に目線を向けた。

 

「いや、吾輩の考えだ☆ 吾輩は西の中央政府から陣原家に派遣された顧問であるからして、これくらいの権限は当然であろう✌☭」

 

「そげな無茶な!」

 

 日頃はおとなしい裕志でさえ、この一方的な決めつけに、大きめの声を上げた。もっともひと目見て、『こいつは扱いやすいだろうて☻』などと、東天はギターを背負った若造魔術師を、頭っから舐めていた。しかしサングラス戦士のほうはなぜか、東天にとって、不気味な雰囲気が否めない感じとなっていたのだ。

 

(こっちの中途半端なリーゼントにサングラス😎の変な野郎は……どうも吾輩の理解を、不思議ながら超えるわい☁)

 

 それだからこその完全無視なのだが、当然シカトされた当の本人は、必然的に黙ってはいなかった。

 

「グラグラこくっちゃねぇ、こんポテチン野郎がぁ! てめえが何様か知らんちゃけど、こんオレが久留米くんだりまで来て、『もうけっこうやけ、どうぞお帰りください⛴』なんち言われて、『はい、そうでっか☺』なんち、おとなしゅう帰るとでも思ってケツカルんけぇ、こんオタンチン! オレが帰る前にてめえが先に帰れっちゅうんだよぉ! どこに帰るか知らんちゃが、早よ帰らんと、ほんなこつしばき上げちゃるけねぇ!」

 

「な、なにぃ!」

 

 この荒生田の剣幕には、やはりと申すべきか。先ほどの得体の知れない不気味さもあっさりと忘れ、顧問魔術師の両眼が、ギラリと吊り上がった(やっぱり短気)。おまけに眉間にもシワが寄る――のだが、それでも荒生田の遠吠えは止まらなかった。

 

「だいたいてめえは、自分で顧問魔術師なんち抜かしようとやが、いったいこん久留米でなにをどげんしようってんちゃねぇ! もともと命令されて来ただけやったら、てめえこそさっさとどこでも帰ればよかろうもぉ! やけんお払い箱されるんはてめえ自身であって、なんやったらそこにおるゴミどもといっしょにまとめて、こんオレが全部なおして燃えるゴミん日に出してやろうけぇ、こんカベチョロ野郎がよぉ!」

 

「せ、先輩……もうその辺で、やめといたほうが……♋」

 

 などと忠告を行なったところで、いったん吠え出した先輩が止まらないことを、裕志は重々承知済みにしていた。しかもこれは、裕志でさえもひさしぶりに拝見をする、大いに吠える荒生田であったのだ。


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