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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

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「あれくれえなんくるないさー☀ サラマンダーのやなかーぎー(沖縄弁で『不細工』)野郎、簡単に片付いちまっただわけさー✌」

 

 誰もが恐れる火のマジムンを始末した手柄で、博美の鼻はラリー並みに、もう天まで届くほどの高々だった。

 

「凄かっちゃねぇ✌ ぼく感激しちゃったばい♡」

 

 究極の恐怖から解放された裕志など、もう手放しの喜びよう。こうなると荒生田でさえも、思いっきりの賛辞の贈りようでいた。

 

「さっすが勇敢で名ば馳せる女戦士っちゃねぇ♡ こげんなったらオレかてもう、兜ば脱ぐしかなかっちゃねぇ☺☺」

 

 ふつう相手が男性であった場合、こんなときの荒生田は逆に強がって、負けず嫌い根性を剥き出しにするもの。それが女性ともなれば、逆に最大限の誉め言葉を贈ることに、なんのためらいも感じない性分なのだろう。

 

「いっぺーじょーとーなセリフ、ありがとよ☺♡ それとなんばぁよ☟」

 

 ここでお世辞受けまくりの博美が、象の上から『ふふん♡』と、自分の鼻を鳴らした。そのついで、どうやら尋ねたい質問が、ひとつあるようだった。

 

「やーはさっきから、ぬーやが孝治を裸にして抱いてんやが?」

 

「おっと、そうやったっちゃ☆」

 

 荒生田は今も全裸の孝治を、自分の両腕でかかえたまま。孝治の顔はもう、恥ずかしい思いの極致で真っ赤っか。もちろん荒生田とて、まったく忘れていたわけでもなかった。

 

「おっほん♡ こ、これはやねぇ……♡」

 

 こんなとき一般人であれば、苦しい言い訳の数々を延々と並べ立てるもの。しかしそこは、このサングラス😎戦士の常識が、世間一般と大いに異なる点である。

 

「ゆおーーっし♡ これこそオレのオレたる所以{ゆえん}なんやけねぇ♡ いついかなる場合でも、時と状況に応じて最悪の事態ば回避する♡ これこそ戦士の最大の使命やなかですか♡ やけんこん彼女の安全ば最優先するんが、今ん場合の最も考えうる最良の選択っちゅうもんやけねぇ♡」

 

 荒生田の口振りは、もろに一種の開き直りとも言えそう。ところが博美のほうは、その口調から察する限り、特に嫌悪している感じでもないようだ。

 

「へえ、じょーとーなだわけさー☆ おれはあんたが裸のいなぐー(沖縄弁で『女の子』)を抱いてるからと言って、別に軽蔑なんかしてるわえでもないんだしー♠ それよりかか弱いいなぐーをなにがなんでもでーじに守り抜くっていう、勇気ある行動に共感するばぁよ☀」

 

 などとむしろ、尊敬にも値するような眼差し。そんな瞳で、博美はラリーの真下にいるサングラス戦士を見つめていた。


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