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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (14)

 ブオオオオオオオオッッッと、これはサラマンダーの悲鳴なのだろうか。水を浴びたサラマンダーが、宙に浮かべていたその巨体を、ズシンと地上に落下させた。

 

 地上からわずか一メートルぐらいの浮上にしか過ぎなかったはずなのに、周辺に響くような、とても大きな音を感じさせたほど。

 

「す、凄かぁ……♋」

 

 いまだ荒生田に抱かれているままの孝治であった。それでも思わず瞳を開いて、その壮絶な光景に見取れていた。

 

 それと言うのも荒生田も裕志も、さらに友美と涼子までが逃げなければならない今の事態を忘れた感じ。ラリーとサラマンダー――いわゆる水と火の戦いに、誰もが目も心も奪われた状態になっていた。

 

「やっぱし……あんまし安直なもんやけ考えてもおらんかったんやけどぉ……やっぱサラマンダーっち、水に弱かったんやねぇ♋」

 

 友美がなかば呆然とした口調で、ポツリとささやいた。それに応える涼子もまた、やはり呆然自失気味の顔でいた。

 

『そげんみたいっちゃねぇ……友美ちゃんの言うとおり、ほんなこつ安直な気もするっちゃけど、やっぱし火事は水で消火するもんなんやねぇ☂』

 

 そんな彼女たちや彼らの見守る前だった。水をかけられ続けているサラマンダーは、最初の勢いを、大きく減殺されていた。しかしまだまだ、怪物としての底力を、すべて失ったわけでもなかった。

 

「見てん! サラマンダーにかかった水が蒸発して、また息ば吹き返しようっちゃよ!」

 

 裕志が右手で指して叫ぶとおり、怪物の全身から白い水蒸気が立ち昇っていた。さらに一度地面に付けた四本の足が、再び元の力を取り戻した様子。その巨体をゆっくりと、地上に持ち上げていた。


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