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『剣遊記12』

第四章 サラマンダー、恐怖の襲撃。

     (12)

 河原の方向から黒い煙が立ち昇っている光景は、少し離れた河畔にいる、博美の瞳にも写っていた。

 

「ラリー、あっちのほうでへんなーことがあってるようだからよー☞」

 

 博美はまったくふつうの友達に話すようにして、ラリーに声をかけた。すぐに彼女(ラリーはメス)もパオーーッと大きな吠え声を上げ、博美が右手で示す方向に眼を向けた。

 

 本当に息のそろった、人と動物との信頼と交流であった。

 

 それはけっこうな話として、ラリーの手綱を左手で握っていた博美は、前に進みかけた象を止まらせた。なぜなら博美はすぐに、火災の原因がわかったからである。

 

「なるほどぉ、あったーらが火のマジムンに、しなされるような目に遭わされとるんだわけさー☛」

 

 博美が冷静に観察をしてつぶやくとおり。河原の草むらを突き抜け、今やすっかり顔なじみであるサングラス戦士やギターの魔術師、それに自分と同じ短髪の女魔術師の三人が逃げている状況を、はっきりと彼女は見つけ出したのだ。

 

 もち幽霊の涼子は見えていない――に決まっている。

 

 しかも三人のあとからブオオオオオオオオオオオッッッと、全身を紅蓮の炎で燃え上がらせた、異形の怪物が追っていた。

 

「あのマジムンはサラマンダーだある✍ なるほど、確かにありゃあ、火のマジムンやしが✍ それはだからよぉとして、ぬーやが荒生田の野郎が、裸のいなぐー(女の子)をかかえてんばぁよ?」

 

 サラマンダーほどの有名怪物ともなれば、博美もよく知っている存在であった。しかしそれよりも博美は、荒生田がどうして全裸の美女(?)を『お姫様だっこ』しているのかも気になった。だけどそれ以上は、生来からの前向き志向である、博美の知った話ではなかった。

 

「う〜ん、まあ、でーじなことはあとでいっぺー訊くとして、か弱いいなぐーを真っ先に助けようとしてる、いっぺーじょーとーな態度……あにさー案外いいやつじゃん✌♡」

 

 いろいろ有りそうな理由の推察は棚に上げ、とりあえずここでは荒生田に対し、博美は極めて好意的な解釈で受け止めてやった。

 

 そんな話の成り行きで、現在最大の問題は、やはりサラマンダーであった。

 

「よっしゃあーーっ! ラリー! あったーら助けにいみそーれぇーーっ!」

 

 博美の元気百パーセントの掛け声に応え、ラリーもパオーーッと、高い吠え声を繰り返した。

 

 それから再び川の中に足を踏み入れ、長い鼻の先を水中に突っ込んだ。

 

 これぞ象の得意技! 長い鼻の中に水を思いっきりゴクゴクゴクッと貯め込む荒技! 地球上に数多くの哺乳類あれど、このような離れ業が可能な動物は、まさに象を置いて他にはいないだろう。

 

 ちなみに本来の目的である水浴びは、とっくに終了。下着も鎧も完ぺきに着用済みとなっている博美が、勇猛な女戦士にふさわしい雄叫びを上げた。

 

「よっしゃあーーっ! ラリー! 行くりんどぉーーっ!」

 

 これにも再び応え、ラリーも水をたっぷり貯め込んだ鼻を頭上に上げ、バシャンッ ザバザバザバァッと豪快に、川から岸辺へ上陸した。

 

 これら博美とラリーが向かう先は、こちらの方向に走ってくるサングラスの戦士たちと、その背後から迫るサラマンダー!


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